日中、アジアの金融協力でも主導権争い 中国、「一帯一路」でADBに協力迫る

 
会見する中尾武彦ADB総裁=4日、横浜市西区(伴龍二撮影)

 6日に開かれた日中財務対話では両国が今後も経済・金融面で協力を続けることを確認した。ただ、アジア地域のインフラ投資だけでなく、金融危機防止に向けた“安全網”づくりをめぐっても日中の温度差は大きい。「アジアの盟主」を標榜(ひょうぼう)しながら、自国優先の行動をとり続ける中国の姿勢も鮮明になってきている。

 10年ぶりの日本開催となったアジア開発銀行(ADB)の年次総会。同時に行われた各国財務相らの会議なども含め、“陰の主役”はやはり中国だった。

 5日の日中韓と東南アジア諸国連合(ASEAN)の財務相・中央銀行総裁会議では、外貨不足に陥った国にドルを融通する多国間の通貨交換協定「チェンマイ・イニシアチブ」の強化が話し合われたが、中国の反対で先送りされた。

 1997年のアジア通貨危機の反省から日本主導で作り上げた安全網の強化は、米国が利上げ局面に入り、アジアの新興国の投資マネーが流出する懸念がある今、時流に合っていた。

 にもかかわらず、中国が反対したことに会議関係者は「他国の心配をしている場合ではないからだろう」と当てこする。というのも昨年以降、米国の利上げなどで人民元が下落。中国政府は外貨準備を取り崩し、市場介入で何とか急落を防いでいる状況だからだ。

 日本はASEAN各国の財務相らとの会議では2国間協定を強化し、緊急時にドルの代わりに円を融通する新たな仕組みを提案した。アジア地域のドル依存が危機の一因になっている側面もあるためだ。中国も「人民元の国際化」を進めるものの、財務省幹部は「人民元は資本規制が強く残る。ライバル視しているわけではない」と距離を置く。

 「アジア途上国におけるインフラニーズは今後15年で合計26兆ドル(約2900兆円)と見込まれている」

 6日のADB年次総会の開会式で、麻生太郎財務相はこう語り、ADBと協力して地域の発展に取り組んでいく姿勢を打ち出した。

 一方、中国が発足させたアジアインフラ投資銀行(AIIB)は加盟国・地域数が70になり、ADBの67を上回った。AIIBは中国の新シルクロード経済圏「一帯一路」構想を金融面で支える。肖捷財政相はADBに対しても「効率良くアジア全体を発展させていける」と、都合良く一帯一路構想への協力を求めている。

 アジアや欧州の各国が参加を決める中、日本政府は米国同様、AIIBへの参加を見送ってきた。中国政府の思惑が融資に反映される可能性があるなど、「ガバナンス(統治)に疑念がある」(政府関係者)ことが大きい。

 国際金融筋は「AIIBは中国のアジアにおける主導的な地位の象徴。日米が参加すれば、その地位を認めるという話になる」と指摘する。

 ただ、日本とともにADBを主導してきた米国はトランプ政権が誕生し、北朝鮮問題などをめぐり中国との関係改善を進めようとしている。日本には米国の動向も見極めつつ、アジアで主導的な地位を築いていく戦略が求められている。

(田村龍彦、中村智隆)