(上)「わざわざ中国で働きたくない」 解消されぬ人材不足、ADBとの差歴然
中国主導 AIIBの研究■進まぬヘッドハンティング
中国主導の国際金融機関であるアジアインフラ投資銀行(AIIB)の存在感が強まっている。2015年12月設立で、翌月の16年1月に北京で開業したAIIB。韓国の済州島で今月行われた第2回年次総会までに、わずか1年半で80の国と地域の加盟を承認するに至った。日米主導で1966年12月にフィリピンのマニラで設立され、半世紀以上を経たアジア開発銀行(ADB)が67カ国・地域なのに対し、“規模”で競う姿勢をみせている。
AIIBにはすでに主要7カ国(G7)のうち英国やドイツ、カナダなど日米を除く5カ国までが参加している。AIIB最大出資国で強大な決定権を持つ中国との距離感から、先進国の判断は分かれている。
日本は5月に安倍晋三首相が、「疑問点が解消されれば(AIIB参加も)前向きに考える」と述べたことを受け、経済同友会の小林喜光代表幹事が、ガバナンス(組織運営)などを点検した上で「前向きに対応するのが自然と思う」と前のめりの発言を行った。
小林氏は、ADBとAIIBの関係について、「より質の高いプロジェクトをADBがやり、インフラの一部など分かりやすく単純な部分をAIIBがやるという考えもある」と指摘した。AIIB参加により、海外でのインフラ建設案件をめぐる輸出チャンスが見込めるとの思惑がありそうだ。
とはいえ、国際金融機関の基本的な役割は主に途上国支援だろう。戦後復興に向けた国際組織として、世界銀行や欧州復興銀行(EBRD)、そしてADBという流れがある。AIIBが単なるインフラ専門の商業銀行ならば、民間金融機関との差はあまりない。
融資審査は外部委託
一方で80カ国・地域が慌てて参加するなど、“期待感”ばかりが先行するAIIBの実像は一般にはまだ知られていない。改めてこの組織をヒト(人)、カネ(資金)、モノ(プロジェクト)からみると、酷な言い方だが、「幽霊の正体見たり枯れ尾花」といっていいほどの開きがある。
AIIBとADBの「ヒトと組織」比較表を作成してみた。AIIBの初代総裁は中国の元財政次官でADB副総裁を歴任した金立群氏。ただ、拠点は北京市内の本部のみで職員数はわずか100人ほど。日本なら地銀や信金にも劣るマンパワーだ。融資審査など専門業務は外部にアウトソーシング(委託)する。「21世紀型のガバナンスだ」と金氏は今月17日に済州島で行った記者会見で胸を張ったが、3100人近い専門職員が世界26の拠点で働くADBとの差は歴然だ。
テレビ会議とメール
AIIBは公式ホームページで設立前から人材募集をかけ、国際機関や民間銀行の優秀な人材へのヘッドハンティングを続けているが、「大気汚染が激しい上に、わざわざ規制の厳しい中国で働きたくないと考える金融マンが多く、AIIB北京本部は慢性的な人材不足なのが実情だ」(エコノミスト)といわれる。
AIIB理事ら幹部は総裁以外、北京駐在ではないため、案件審査や承認の理事会は通常、テレビ会議と承認サインをメールなどでもらう“持ち回り”会議が中心。途上国支援でどこまで、国際金融機関としてガバナンスが働き、恣意(しい)的な決定がなされない透明性が確保できるかどうか。麻生太郎財務相がなおAIIB参加に慎重姿勢をみせる重大な理由がここにある。
しかも、AIIBが設立前後に信用力を得ようと世界中の元首脳クラスに声をかけ、日本からは鳩山由紀夫元首相を顧問役に就任させたことが、日本側からみると完全に“逆効果”にもなっていることに、中国側はなお気付いていない。(上海 河崎真澄)
▼(下)もはや国際金融機関ではない? 他人任せの融資、援助意識も低く
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