問われる国土強靱化政策 九州北部豪雨、未曽有の「流木水害」
論風□防災・危機管理ジャーナリスト 渡辺実
九州北部豪雨災害被災地からの映像にくぎ付けになった。「流木でまちが破壊されている!」。それほど大量の流木が襲ってきている。筆者が経験してきた豪雨土砂災害現場では目にしたことがない。
◆東京ドームの3分の1
九州森林管理局によると、福岡県山中で300カ所を超える表層崩壊が発生。災害発生から1週間ほどたった7月13日、福岡県は被害が大きい10河川から朝倉市と東峰村に流れ出た倒木は20万トン(36万立方メートル)以上になると、航空写真から推計した。この量は東京ドームの約3分の1に相当する。
ただし、土砂に埋まった流木、海に流出した流木はカウントしていないので、実際はこれ以上の量になるとの報道もある。短時間での記録的豪雨が同時多発の表層崩壊を引き起こし、その土砂と一緒におびただしい流木が谷筋を下った。
土砂と流木は河川をせき止め、また川筋を変えて被害を拡大していった。下流部では土砂に加えて、流木が突き刺さって破壊された家屋も見られた。その流木は根が付いたまま、また流される過程で表皮がほぼ完全に剥がれたものが多い。土石流と一緒に急流を下ったことがわかる。
これまでの土砂災害では大量の水と土砂・岩が濁流となって街や家屋を襲っていたが、今回はこれに大量の流木が加わったことが特徴といえる。重機が入れない被災現場での自衛隊の活動も通常の水害被災地とは異なる。これら流木をチェーンソーで切断しながらの行方不明者の捜索は難航し、同時に被災地復旧の障害になっている。
福岡県は9日、関係部局による横断的な流木対策チームを発足させている。泥をかぶった家財は重い。移動だけでも難儀な作業である。これら水害ゴミ処理でも立ち往生している現状に今回は流木処理が加わることになる。まさに「流木水害」といっていいだろう。
◆亜熱帯型気候が現実に
愛知県犬山市や秋田県大仙市で短時間記録的豪雨により、河川が氾濫し冠水被害が発生した。九州北部豪雨は線状降水帯によるものだったが、犬山市ではいわゆるゲリラ豪雨である。
まだ記憶に新しいが、2014年8月に広島土石流災害、15年9月には鬼怒川氾濫による関東・東北豪雨災害、さらに昨年は北海道十勝地方を台風10号が直撃した豪雨災害が発生している。毎年のように全国各地で異常豪雨災害が相次いでいる。日本の気候はこれまでの四季折々の温暖な気候から、激甚な豪雨を局地的に降らせる亜熱帯型気候に変わってしまったといえる。しかし河川などのハード整備基準などは穏やかな気候を前提にしているもので、この激甚な気候変化に対応できていない状況が喫緊の問題となっている。
東日本大震災を教訓に政府では13年12月に「国土強靱(きょうじん)化基本法」を施行し、翌14年3月に「国土強靱化基本計画」を策定、毎年「国土強靱化アクションプラン」を見直し策定している。この国土強靱化政策は有効に機能しているのだろうか。予算は効果的に適切に執行されているのか。
過去の復興予算のように関係各省庁が寄ってたかって予算を獲得する総花的な机上の空論になってはいないだろうか。特に気候変動に伴って毎年のように襲っている水害リスクに対する対策は、広域避難や気象情報の最適化などのソフト対策に伴ってハード対策のレベルアップが必須になる。これには予算と時間がかかる。目前の問題解決と、一方での長期的な視点が図られているのか。
首都圏など大都市も人ごとではない。現実に首都圏水没も危惧される。気候変動に伴う異常豪雨災害に重点を置いて国土強靱化に取り組まないと取り返しがつかない事態が発生する。今回の九州北部豪雨災害からそんな危機意識を感じているのは筆者だけだろうか。
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【プロフィル】渡辺実
わたなべ・みのる 工学院大工卒。都市防災研究所を経て1989年まちづくり計画研究所設立、代表取締役所長。NPO法人日本災害情報サポートネットワーク顧問。技術士・防災士。66歳。東京都出身。
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