(5)法律面と税制の課題 改善の余地も

ソーシャルレンディングを知る

 Fintech(フィンテック)サービスには法律をはじめとした制限や課題がつきものだ。ソーシャルレンディングもその例に漏れない。本稿では、今後解決されるべきソーシャルレンディングの課題について解説する。

▽2つの法にのっとったビジネスモデル

 ソーシャルレンディングは個人から募った小口資金を大口化し、借り手企業に融資する仕組み。その特性上、投資家から資金を集めることを規制する「金融商品取引法」と融資を事業として行うことを規制する「貸金業法」という2つの法律にまたがったビジネスモデルとなっている。基本的にはこれらのライセンスを取得していない限り、ソーシャルレンディングサービスの運営はできない。

 しかし、これらの法は当然ソーシャルレンディングを意識してつくられたものではない。金融商品取引法は投資家を保護する観点から投資先情報開示の徹底を求める一方で、貸金業法は債務者保護の観点から債務者情報の秘匿性を重視する。この異なる目的を有するふたつの法的スキームを活用することよって、ソーシャルレンディングは矛盾を内包することとなり、結果、情報の透明性という点で足かせになっている。

▽借り手企業の詳細が見えない「匿名化」

 現在のところ、ソーシャルレンディングでは借り手企業(融資先)の詳細な情報が開示されていない。そのため、投資家は企業名が公開されていない状態で投資するファンドを選択しなければならない。 借り手企業の情報が明示された状態で、個人がソーシャルレンディング投資を行う行為は、実質的に、個人が無登録で貸金業を営んでいるのと同様の状態にあるというのが当局の見解だ。万一、借り手企業に延滞や貸し倒れが起こった際に、投資家が不法な取り立てを行う可能性も否定できない。それらを危惧する当局が事業者に対して融資先匿名化の指導を行っているというのが実態だ。

▽法制度の改訂も視野に

 一方で、匿名性によって別の懸念も生じている。先述した通り、ソーシャルレンディングでは最終的な借り手の情報がわからないため、投資家はソーシャルレンディング事業者を信じて投資するしかない。もし、事業者が悪意を持って匿名性を利用した場合、投資家にそれを避ける手立ては今のところ無い。ソーシャルレンディング業界の活況により、近年参入事業者は急増している。その流れに乗じて、今後、悪徳業者が参入してこないとは言い切れない。

 現在のソーシャルレンディングにおける法制度は債務者保護の観点(情報の秘匿性)が重視され、投資家保護の観点(情報開示の徹底)が軽視された状態になってしまっている。どちらをより重視するかというのは難しい問題ではあるが、これだけ投資家の数が増えてきている以上、法制度の改訂も視野に入れた、幅広い議論が求められている。

▽税に関する課題

 ソーシャルレンディングは税制度においても課題を抱えている。

 所得税には総合課税と分離課税があるが、ソーシャルレンディングの分配金は総合課税に該当する。

 総合課税では収入それぞれの所得を合算し、各種控除額を引いた金額に、所定の税率を掛け合わせて所得税を計算する。累進課税のため、ソーシャルレンディングの分配金額が増えれば増えるほど支払う税額も増えることになる。

 一方、株式投資や投資信託の売却益は分離課税である。分離課税は収入の種類ごとに所得税を計算する。また税率の上限も決められていることから大きな金額を運用しても所得税が高騰する心配がない。そのため、ソーシャルレンディングの所得税が分離課税になることを望む投資家は多い。

▽NISAは対象外

 NISAとは2014年1月から開始された少額投資非課税制度。NISA口座では年間120万円まで投資でき、その取引から生じる運用益は非課税となる。

 現在、ソーシャルレンディングはNISAの対象外だ(2017年7月現在)。

 税金や各種手数料を差し引きすると、実質的な利回りは低くなってしまう。NISAを利用できれば、非課税となるため、手元に残る金額は多くなる。NISAに対応することにより、投資家の裾野も広がるだろう。貯蓄から投資への流れを加速する経済活性化施策の一環として、近い将来、ソーシャルレンディングがNISA対象となることを期待したい。

 ソーシャルレンディングは比較的新しい投資商品であることから、法及び説制度にはまだ改善の余地がみられる。投資家と借り手企業の目線にたった仕組みのさらなる充実に期待したい。

 次回は投資家に学ぶソーシャルレンディングに向く人、向かない人について解説する。(※次回は8月18日から掲載予定です)

【プロフィル】藤田雄一郎

 ふじた・ゆういちろう 株式会社クラウドポート代表取締役。早稲田大学商学部卒業後、株式会社サイバーエージェントに入社。2007年にWEB構築、マーケティング支援事業を行う企業を創業し、12年に上場企業に売却。13年に大手ソーシャルレンディングサービスを立上げ、サービス開始から約2年半で80億円の資金を集めるプラットフォームに成長させた。16年11月にクラウドポートを創業。

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