【アセアニア経済】チャンギ空港が「世界一」である理由 無人化技術でコスト圧縮 危険人物も見抜く
■最先端技術でコスト・安全を両立
アジア有数のハブ(拠点)空港、シンガポールのチャンギ国際空港で31日、4番目となる新たなターミナル(T4)の運用が始まる。経済成長が続くアジア諸国では、所得の向上とともに中間層を中心にした海外旅行の需要が増加している。さらに、格安航空会社(LCC)の台頭で、アジア各地を結ぶ新規路線の就航も相次いでいる。事前公開された新ターミナルを訪れると、既存ターミナルで行われている搭乗券取得や出国手続きに加え、荷物の預け入れなども旅客が自ら行う方式が採用されていた。待ち時間の短縮と人件費を含むコスト圧縮を両立しながら、増大する利用者を取り込む工夫が随所に見られた。
出国まで係員要らず
「パスポート(旅券)を機械に読ませ、顔をカメラに向けてください。本人確認が成功したら、自分で荷物をベルトに載せてください」。事前公開されたT4の搭乗カウンターでは、担当者が見学者に荷物を自分で預ける方法を説明していた。荷物には、これも無人の機械で搭乗手続きをした際に発行されたタグを自分でつける。重さや大きさが適正と機械が判別したベルト上の荷物は、スッと奥に送り出されて航空機に向かう。
6歳以上の市民や長期滞在者は、事前登録すれば、出国手続も担当者らと一切会話をせずに済ませることが可能だ。T3までの既存ターミナルでは、指紋認証で本人を確認した後、係官が旅券の写真を目視で確認してきた。だが、T4では機械の顔認証で旅券と同じ顔の人間かを確認し、「なりすまし」を防ぐ。顔認証は、搭乗口で搭乗券と旅券をチェックする際にも行われるという。
英スカイトラックスが今年3月に発表した旅客が選ぶ世界の空港人気ランキングによると、チャンギは1位で、2位の羽田(日本)や3位の仁川(インチョン)(韓国)を上回る。航空会社約100社が乗り入れ、世界380都市を結ぶアジア有数のハブ空港だ。だが、競争を勝ち抜くためには、低コスト化が不可欠となる。
特にアジアでは、かつては富裕層の乗り物だった航空機が、急速に“庶民の足”となっている。T4は、10月31日から順次、キャセイパシフィック航空(香港)、ベトナム航空(ベトナム)、大韓航空(韓国)といった大手に加え、LCCの代表格であるエアアジア・グループ(マレーシアなど4カ国)や、セブパシフィック航空(フィリピン)、春秋航空(中国・上海)が利用を始める。
国民1人当たりの所得が日本を大きく上回るシンガポールでは、清掃作業を含む肉体労働のほとんどは海外からの出稼ぎ労働者に依存している。だが、それでも人件費の抑制はコストに直結する。T4では、清掃に無人ロボットなども投入する。
顔認証でテロ対応
一方、イスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」(IS)など、台頭するテロへも対応できる安全対策の強化が同時に求められる。シンガポール政府は、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)を通じて過激思想に染まったなどとし、バングラデシュ人の建設作業員の男や、インドネシア人のメイドの女らを本国送還にしている。コストと安全を両立させるカギを握るのが、危険人物などを確実に見分ける顔認証などを伴った、最先端の無人化技術というわけだ。
東京23区ほどの国土に約570万人が暮らす都市国家シンガポールは、観光産業に注力してきた。日本貿易振興機構(ジェトロ)シンガポール事務所によると、2001年に752万人だった外国人来訪者は16年に1640万人へ増加した。
内訳は4割が観光で、2割がビジネス目的だった。国別では近年、中国やインドからの来訪者が上位を占めるようになった。途上国を含む旅客を今後も取り込んでいけるかが、国の経済をも左右する。
T4の運用開始により、チャンギ国際空港の年間取り扱い能力は、1600万人増えて8200万人となる。建設中の商業施設が19年初旬に開業予定で、20年までに第3滑走路も新設して、20年代末までには新たに5000万人を扱える5番目のターミナル(T5)が加わる。年間取り扱い能力を1億3500万人に引き上げ、アジアのハブ空港の地位を維持していく計画だ。(シンガポール 吉村英輝)