【高論卓説】総理悲願の改憲に現実味 政治は「凪」の18年 まずは簡単な改正から
2018年は、政治的には「凪(なぎ)」の年とされる。参院選はなく、昨年解散総選挙をした衆院選も恐らくない。4年に1度の統一地方選もない。この3選挙のいずれもなかったのは直近だと08年で、実に10年前だが、当時は国会が「衆参ねじれ」状態で、福田内閣が麻生内閣に代わるなど、政局的には極めて不安定であった。今年は秋に自民党総裁選があるが、既に安倍続投がほぼ既定路線だ。
世界を見ても、昨年は、米でまさかの新大統領が就任し、仏で39歳の大統領が生まれ、韓国でも大統領が交代する激動の年であったが、今年は、再選間違いなしの露大統領選があるくらいで、日本に甚大な影響を与える選挙は見当たらない。
そんな中「こういう年こそ」と、総理の悲願の憲法改正が現実味を帯び始めている。
官邸やその意を受けた自民党は、(1)自衛隊(2)緊急事態条項(3)参院の合区解消(4)教育充実-など4項目に的を絞り、選挙のない今年中に改正の発議をし、60日以後180日以内に行う国民投票に持ち込むことを模索している。実現すれば1947年の日本国憲法の施行以降初めてであり、上記の3選挙どころではない歴史的投票となる。
ちなみに、私は改憲賛成派である。そもそも不適切な記述が多々あるし(国権の最高機関=国会と三権分立の関係、「公共の福祉」の用語、その他の誤記など)、安保情勢や新たな権利概念の成立など時代の変化に対応していない記述も多い。GHQ(連合国軍総司令部)民政局を中心に慌てて原案を作成したというプロセス論的にも納得感がない。根本的に見直すべきというのが私の基本的な考えだ。
ただ、「べき論」と現実は違う。いくら正義を振りかざしても、通らない案を掲げて国民投票で否決されたら元も子もない。仮に自衛隊明記案が国民投票で否決されたら、北朝鮮の暴発に身構える国際社会に対して妙なメッセージを送ることになる。まず、例えば、国民主権の明確化など(前文の「国民の代表者」の「主権の行使」に限らない、国民の直接の行使など)、誰もが反対しようがない改正を実現し、「憲法改正」の事実を作るべきだ。
安倍政権も5年を超え、国民的な「飽き」もある中、私は困難な内容の憲法改正を乗り切る支持は得られにくいと悲観している。抜本的改正に道筋を付けるため、難しい改正は次の勢いある政権に委ね、まずは、改正の事実を作るという2段階改正論を唱えたい。
妙なことを書くが、国論を二分する改正内容だと、確かに議論は盛り上がるが、国民投票で否決されるリスクも高い。当たり前の改正内容を目立たないようにサッと通して改正の事実を作り、国民に安心感を与えるのが先決ではなかろうか。この観点からは、国民投票は来年にして、参院選・衆院選・国民投票とトリプル投票に持ち込むことも一案だと思っている。各種の私擬憲法案が国民から多数出てきた1880年代は一つの理想だが、時代状況も体制も大きく違う。
9条その他についてもいろいろと書きたいことがあるが(自衛「隊」ではなく自衛「権」とそのための実力部隊の可能性の明記にとどめるべきなど)、紙幅が尽きた。タブーなく憲法について議論できる日がそこまで来ていることを歓迎しつつ、ゴールが近づいているが故の慎重論を訴えたい。
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【プロフィル】朝比奈一郎
あさひな・いちろう 青山社中筆頭代表・CEO。東大法卒。ハーバード大学行政大学院修了。1997年通商産業省(現経済産業省)。プロジェクトK(新しい霞ヶ関を創る若手の会)代表として霞が関改革を提言。経産省退職後、2010年に青山社中を設立し、若手リーダーの育成や国・地域の政策作りに従事。ビジネス・ブレークスルー大学大学院客員教授。44歳。
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