【ローカリゼーションマップ】リトアニアを訪ねて~必要不可欠な国際化 デザインに舵を切る企業たち

 
リトアニアの首都ヴィルニュスの街角

【安西洋之のローカリゼーションマップ】

 「エストニアとリトアニアのそれぞれの特徴を表現するなら、エストニアはソフトウェアなど無形の領域で強く、リトアニアは部品など有形に強い、と言えるかもしれない。だからお互いが協力しやすい。ラトヴィアは海運や輸送システムを得意としている」

 こう話すのは、リトアニアのカウナス工科大学機械工学・デザイン学部長、アンドリウス・ヴィルカウスカスだ。彼は砲弾など飛翔体を対象とする弾道学の出身で、現在は航空工学や宇宙開発方面の研究やビジネスに関与している。自分の会社も所有している。

 「もちろん、リトアニアはバルト三国の倣いとしてスカンジナビア諸国との関係は強いし、ドイツにも大切なお客さんが多い。が、隣のポーランドとはやや微妙だ。両国とも、どうしても部品サプライヤーとして競争相手になりがち。ロシア? 案件による」

 リトアニアが強い産業分野として精密機械・バイオテクノロジー・レーザーなどが挙げられやすい。これらの完成品メーカーもあるが、ドイツなどのお客さんとは完成品メーカーや大手一次サプライヤーを指す。したがって似た立場をとるポーランドの会社とはぶつかるシーンが多いという。

 旧ソ連時代、各共和国で担当していた分野がそのまま強さとして残っていることが多い。自動車分野であればリトアニアの企業は素材開発とその提供をドイツの主要自動車メーカーやその部品メーカーに対して行う。ご多分にもれず、現在、軽量素材は大きなテーマである。

 彼の所属する学部は機械工学・デザインとあるが、この狙いは何だろうか。

 「エンジニアリングをベースに製品を開発していれば良い時代ではなくなった。世界の大きな潮流もそうだが、特にリトアニアのような小さな国の企業では、製品が市場に意味をもたらすデザインをベースとして考えないとやっていけない状況にある。人と機械の関係を基本とした教育をするのは必須である」

 スペック競争だけに明け暮れる部品メーカーに将来はない。そう見極めた様子がはっきりとみえる。バイオメディカルの分野で最終製品をつくるメーカーが出てきているのは、リトアニアの企業もデザインに舵を切った成果と言える。

 「リトアニアのような人口300万人ほどの小国の国内市場に頼れることは少ない。我々は輸出でお金を稼いでいかないといけない。インターナショナルであることは必要不可欠の要件である」

 国際化するかしないかではなく、国際化するにどれほどの時間をかけるかでもなく、今、この瞬間に国際化していけない。スタートアップもVCから資金を獲得するに、どこの国のVCにお願いしてダメだったらあの国のVCと悠長なことは言っていられない。緊迫感ある話題である。

 こういう立場だからか、観光には次のような発言をする。

「観光が重要でないとは言わないが、我々の最初にすべき仕事ではない」

 カウナスは2022年に「ヨーロッパ文化首都」というユネスコのプロジェクトの主舞台になる。中世の街並みがある首都ヴィルニュスはとても魅力的だ。それでもまずはテクノロジーとデザインの力で輸出立国になるのが先決である。

 ぼくはリトアニアに行く前から、この国のことを色々と調べ始め、EUのなかでの開発途上国との位置づけで見ていたことがやはり多い。歴史の分断と文化アイデンティの再構築にどう立ち向かうかは大きな課題だ。

 実際に足を踏み入れ、開発途上国的な課題と思わざるを得ないことも多々ある一方、グローバルな変化のなかで先進国かどうかを問わず、どこの国の企業も直面する問題に対してリトアニアが決して不利なポジションばかりではない、ということも実感した。

 殊に欧州委員会との付き合い方に心得がある。EUは理念先行型と大国の一部の市民は批判的であるが、開発途上の小国にとって理念先行はマイナスにならない。

 かつてイタリアの地方のスタートアップは地銀と自治体の世話になったが、現在はEUから直接資金を得る場面が少なくない。小国と大国の地方が、こうしてダブってみえてきた。(安西洋之)

【プロフィル】安西洋之(あんざい ひろゆき)

上智大学文学部仏文科卒業。日本の自動車メーカーに勤務後、独立。ミラノ在住。ビジネスプランナーとしてデザインから文化論まで全方位で活動。現在、ローカリゼーションマップのビジネス化を図っている。著書に『デザインの次に来るもの』『世界の伸びる中小・ベンチャー企業は何を考えているのか?』『ヨーロッパの目 日本の目 文化のリアリティを読み解く』 共著に『「マルちゃん」はなぜメキシコの国民食になったのか? 世界で売れる商品の異文化対応力』。ローカリゼーションマップのサイト(β版)フェイスブックのページ ブログ「さまざまなデザイン」 Twitterは@anzaih

ローカリゼーションマップとは?
異文化市場を短期間で理解するためのアプローチ。ビジネス企画を前進させるための異文化の分かり方だが、異文化の対象は海外市場に限らず国内市場も含まれる。