【論風】サイバー強国イスラエル 日本は産業面で交流活発化を

 
※写真はイメージです(Getty Images)

 □日本危機管理学会会長、国際社会経済研究所上席研究員・原田泉

 最近わが国はトランプ米政権と協調するかのようにイスラエルとの外交やビジネス関係を急速に深めている。特にサイバーセキュリティー分野では昨年5月に協力関係構築の覚書を交わした。原子力発電所を含む重要インフラと2020年の東京五輪のサイバーセキュリティー強化施策である。

 中東のシリコンバレー

 そのような中、6月中旬、テルアビブ大学で行われたサイバーウイークという国際フォーラムに参加した。フォーラムは、イスラエル政府が主催し、60カ国から約9000人が参加。基調講演でネタニヤフ首相は、サイバー対策は人類の大きな課題で、あらゆるものをサイバー攻撃から守られなければならないが、イスラエルはサイバーの世界で米中英露と並ぶ5大強国の一つになったと自信を示した。また人工知能(AI)とビッグデータのデジタル時代で歴史的な変化が起こるとして、サイバーだけではなく、精密農業、スマートモビリティー、デジタルヘルスなど新しい産業を生み出していくと語った。

 実際、イスラエルは“中東のシリコンバレー”と呼ばれ、アップルやグーグル、マイクロソフトといった最先端のグローバル企業が次々と進出、日本企業による投資額もここ3年で20倍、17年は222億円に上った。

 このような飛躍の原因は、周囲を敵に囲まれている状況と国家によるICT(情報通信技術)人材育成策にある。イスラエルは、不法占拠が続く入植地問題、国連決議違反などもあって周辺のアラブ諸国との対立が続いている。その結果、国防軍は設立以来5度の大規模な戦争を経験し、世界で最も練度の高い軍隊の一つだと評価されている。特に国防軍のサイバー諜報部門の8200部隊は、技術レベルが極めて高く、サイバーセキュリティー技術等の研究、諜報活動(通信傍受、暗号解読、メディア、インターネットなどからの情報収集)、サイバー攻撃および防御を主な任務としている。

 ここでキャリアを積んだ人材は、培った人脈を活用し退役後に起業したり、国内外の関連企業に高額の報酬で迎えられる。サイバー最前線で日々実戦を通じて養成された攻撃能力やスキルは、高度な防御技術にも直結し、世界中の関連機関や企業からのニーズは高い。そこには軍から産への強力なエコシステムが見て取れる。

 一方、人材育成では、義務教育は5歳からスタートし、小学校からプログラミングを学び、その後18歳で男女ともに徴兵される。ここでは、一律に同じ任務に就くのではなく、さまざまなテストで選抜が行われ、最優秀の人材は、最新軍事技術の開発に専念するか先の8200部隊に採用され、さらに上の人材となっていく。いわば兵役が一種のインキュベーションセンター的な役割を果たしているのである。イスラエルは、国土も狭く天然資源もない。人だけが資源である。その文化風土は、権威におもねることなく、自由に議論し、チャレンジが奨励される。このような風土の下、産学官が柔軟な人材交流を通じて技術開発を行っている。

 是々非々の対応肝要

 このようなイスラエルから学ぶべきことは多い。特にサイバー関連では専守防衛では習得できないサイバー攻撃面での蓄積があり、サイバー攻撃が多様化、高度化する中、米英に次ぐ頼りがいのあるパートナーとなり得る。

 しかし過度な依存は禁物である。特に国家機関や重要インフラなどの防衛を他国に頼ることは大きなリスクを伴う。また、国際関係上のリスクを考えると外交面ではこれまで通り中東和平の促進とパレスチナ支援に力を入れるべきだろう。米中にみられる地政学的パワーバランスの構造的シフトの中、わが国はまずはアラブ諸国との関係を十分考慮しつつ、イスラエルとはICTを中心とした産業面での交流を活発化すべきであり、是々非々の対応が肝要と思われる。

                   ◇

【プロフィル】原田泉

 はらだ・いずみ 慶大大学院修士修了。日本国際貿易促進協会などを経てNEC総研から国際社会経済研究所へ。現在同上席研究員。早稲田大学非常勤講師なども務める。61歳。東京都出身。