【キャッシュレス革命(2)】中国「個人情報筒抜け」より利便性 外国人観光客らは“支払い難民”に
「最近では現金窓口に来るお客さんは1日あたり数十人。長い行列もなくなったね」。中国4大国有商業銀行の一つ、中国工商銀行の上海市の支店。米ドルなどの外貨を人民元に両替しに訪れると、窓口の行員はこう語った。
金融関係者によると、4大商銀だけでこの2年間に、少なくとも5万人の人員が削減された。「(現金を使わない)キャッシュレス社会が浸透し、都市部では個人向け現金窓口の需要があっという間になくなった」という。
中国の電子商取引(EC)大手アリババグループが運営する電子決済サービス「支付宝(アリペイ)」などの利用者は延べ約12億人。中国人民銀行(中央銀行)の調べで、2017年のモバイル決済(スマートフォンなどによる電子決済)額は前年比28.8%増の202兆9300億元(約3300兆円)に達した。人民銀の20日の発表によると、今年4~6月期も前年同期比60.2%増のペースで伸びている。都市部を中心に中間所得層の消費拡大の大きな波にも乗っかった。
4~6月期60.2%増
中国ではそもそも個人の信用力を重視するクレジットカードがほとんど普及しておらず、支払いと同時に銀行口座から引き落とされるデビットカード型の金融サービスが先行した。そこにアリババなどが目を付けて、カードの代わりにスマホを使って決済するシステムを作り一気に広がった。
中国のモバイル決済は大きく分けて2つある。アリペイとIT大手の騰訊(テンセント)系の「微信支付(ウィーチャット・ペイ)」だ。
利用者は、スマホにダウンロードしたどちらかのサービスのアプリで2次元バーコード「QRコード」を表示し、店側が専用端末で読み取れば、決済完了だ。利用者が店頭に掲示されたQRコードをスマホのアプリに読み込み、支払額を入力してパスワードか指紋で認証して決済するやり方もある。どちらも、利用者の個人口座から即座に引き落とされる。
「かつては偽札の100元をつかまされたことが何度もあったけど、スマホ払いにしてからは心配なくなったし、お客さんもケチることが少なくなった。もう現金はお断り」。上海市内のバス停わきで焼き芋を売っていた露店の女性は、こう強調した。
ズワイガニやタコ、魚などが泳ぐ大きないけすのある北京市中心部のスーパーでは、子供連れの女性が品定めしていた。
買い物カゴを手にした来店客は「自動レジ」と記された一角にある専用端末に近寄ると、おもむろにスマホを取り出してあっという間に決済し、購入品を袋に詰めて出ていった。
不動産バブルの影響で中国都心部の店舗やオフィスなどの家賃が高騰する中、「無人レジ」を配したスーパーだけでなく、「無人コンビニエンスストア」「無人レストラン」も急増している。
商業ニュースサイト「中商情報網」によると、民間調査機関の中商産業研究院は、中国での今年の無人店舗による売上高が前年比3.3倍の330億元に急成長すると見通した上で、22年には9500億元に膨らむと予想する。
中国の消費市場に詳しい野村総合研究所上級コンサルタントの郷裕(ごう・ゆたか)は「無人店舗などのビジネスモデルは、中国が日本に先んじている。その先行事例を人手不足にあえぐ日本に“輸入”することも一案だろう」と指摘する。
支払い難民も
ただ、中国に在住していない外国人や国外からの観光客にとっては、不便なシステムだ。原則として、中国の電話番号によるスマホを実名登録の上で保有し、決済用の中国の銀行口座を作る必要があるからだ。スマホを使いこなせない国内の高齢者やスマホを持っていない農村部の貧困層、出稼ぎ農民も“支払い難民”になっている。
「何億人もの消費行動のビッグデータを分析することで、これまで最良とされてきた『市場経済』を超える新たな『計画経済』を目指す」
アリババ会長の馬雲(ジャック・マー)は中国メディアの取材にこう宣言した。
商品の需給という「見えざる手」で市場が自然と作られる時代に終止符を打ち、ビッグデータに基づき「見える手」で市場を作り上げる考えだ。
消費者の身分や収入、家族構成などあらゆる個人情報が企業に“筒抜け”になってしまうが、多くの人民は「利便性の向上」を選んだ。そもそも、監視社会の共産主義国家では、幼少期から「個人情報の保護」という概念は養われないのかもしれない。=敬称略
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