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日銀、追加緩和避けられず 消費増税、米欧利下げ…円高の加速も

 米中貿易摩擦の激化で経済の減速懸念が強まる中、英国の欧州連合(EU)離脱期限や消費税増税など、今月から10月にかけ日本に逆風をもたらす“重量級イベント”が相次ぐ。米欧の中央銀行は景気下支えに向け、月内に相次いで金融緩和に踏み切りそうだ。輸出企業の業績を悪化させる円高ドル安の進行を防ぐため日本銀行も追加の金融緩和が避けられない状況だが、為替レートに与える影響は限られている。

 「今年後半以降とされてきた世界経済の回復時期が後ずれし、回復の程度も小幅にとどまる可能性が高まっている」。日銀の金融政策を決める政策委員会のメンバーである片岡剛士(ごうし)審議委員は4日、北海道函館市での講演でこう指摘した。

 背景にあるのが米中摩擦の悪化だ。トランプ米政権は今月1日に対中制裁措置「第4弾」を発動。中国も即座に報復措置を実施し、世界1、2位の経済大国で制裁と報復の応酬が続く。米国は10月1日に第1~3弾の制裁関税の税率を25%から30%に引き上げる方針で、対立は一層激化する。

 10月末に期限を迎える英国のEU離脱では、何の取り決めもないまま抜け出す「合意なき離脱」をめぐり総選挙を視野に英国政治が揺れる。欧州最大の経済国であるドイツでも景気後退が懸念される。

 このため米連邦準備制度理事会(FRB)は7月末に10年7カ月ぶりの利下げを実施し、9月の追加利下げも濃厚。月内には欧州中央銀行(ECB)も利下げなど追加の金融緩和を行うとみられ、世界的な緩和競争が進む。日銀だけ手をこまねけば日米金利差の縮小により円高が加速しかねない。

 消費税増税を踏まえ政府は今秋、経済対策を講じる方向だ。市場関係者の間では、日銀も政府と歩調を合わせる形で、経済・物価の先行きを点検する10月会合を軸に、遅くとも年内には追加緩和に踏み切るのではとの見方が強まっている。

 とはいえ問題は手段だ。現在0%を中心に上下0.2%程度に誘導している長期金利の変動幅を拡大しマイナス0.2%より下がるのを認めることや、上場投資信託(ETF)の買い増しによる株価下支えが有力だが、円高抑制効果はいずれもあまり期待できない。

 効果がありそうなのは、日銀が民間銀行からお金を預かる際に年0.1%の手数料を取る「マイナス金利」の深掘り。ただ、金融機関の収益力を一層悪化させる「劇薬」とあって批判を受けるのは避けられず、手足を縛られた状況だ。(田辺裕晶)