【中国を読む】「一人っ子政策」廃止も…中国で出生数が急減、中長期的な足かせに
中国国家統計局が発表した2019年末現在の中国の推計人口は初めて14億人の大台を突破し、都市化率も60%を上回る水準に到達するなど、中国経済がいよいよ成熟期に向かっていると判断できる。一方、いわゆる「一人っ子政策」が廃止されたにもかかわらず出生数は3年連続で前年を下回るなど、少子高齢化が急速に進展しつつある様子もうかがえる。こうした状況は中長期的な中国経済の行方を大きく揺るがす可能性も予想される。(第一生命経済研究所・西浜徹)
良質な労働力は逼迫
中国の昨年末現在の推計人口は、国家統計局によると前年から467万人増加して14億5万人となった。さらに、都市化率(都市常住人口が全人口に占める割合)は60.6%に達し、足元の経済成長率は減速傾向を強める展開が続いているものの、農村部から都市部への人口移動も続いている様子が確認された。政府は昨年末に戸籍制度上の制約を一段と緩める方針を発表しており、今後も都市化の動きが一層後押しされることも期待される。
なお、政府が戸籍制度の緩和を通じて労働力の移動を容易にしている背景には、生産年齢人口(15~59歳)が16年に減少局面に転じるなど、労働需給の逼迫(ひっぱく)が懸念されていることがある。さらに、18年には就業者数も減少局面に転じており、都市間での労働力をめぐる競争激化が予想されることも影響している。
近年中国をめぐっては、「生産拠点」としての存在感の低下が指摘されているが、こうした背景には、これまでの高い経済成長を牽引(けんいん)してきた豊富で低廉な労働力の確保が中国でもいよいよ厳しくなっていることがある。その一方、足元の景気減速を受けて、これまで雇用の創出源となってきた輸出関連を中心とする製造業で雇用調整圧力が強まり、農村部から都市部に移動したいわゆる「農民工」にその負荷が一段と掛かる動きもみられる。その意味では、今後は雇用の量と質の両面の向上に取り組む必要性が高まっているといえよう。
中国の経済構造をめぐっては、依然として家計消費など内需の割合が低く、持続可能な安定成長の実現にはこの比率の向上が欠かせない。昨年現在の1人当たり国内総生産(GDP)は1万ドル(約109万円)を突破するなど、中国はいよいよ名実ともに「中所得国」入りしたものの、そうしたレベルに到達すると、過去に多くの国々が体験したいわゆる「中所得国のわな」に直面するリスクが高まる。こうした点でも中国の経済成長を持続可能なものとするには、さらなる経済構造の高度化が不可欠であり、習近平政権が掲げる「中国製造2025」はその柱になるであろう。
成長率の維持厳しく
ただし、今後の中国経済にとって中長期的な意味で足かせとなり得るのは、出生数が急速に減少していることであろう。昨年の出生数は前年から58万人少ない1465万人にとどまり、16年に「一人っ子政策」が廃止されたにもかかわらず、3年連続で減少する状況となっている。国家統計局は、昨年の出生数のうち6割弱が2人目以降であるとして、政策廃止の効果を強調する姿勢をみせている。しかし、近年の高い経済成長の背後で子育て費用が高騰している上、「一人っ子世代」の間では旧来の家族観も変容しており、政府の政策誘導が効果を挙げられるかは見通せない。
政府内では、20年代後半にも総人口が減少局面に転じるとの見通しが共有されているもようだが、足元の状況は想定よりも速いスピードで少子高齢化が進んでいるようである。結果、人口減少局面に転じる時期も前倒しされる可能性は高く、中国経済の潜在成長率は向こう数年以内に大きく鈍化していくことも懸念される。公式統計上は、昨年の経済成長率は6.1%増と29年ぶりの低成長となったが、今後はこうした水準を維持することは一段と厳しくなることを想定せざるを得ないといえよう。
【プロフィル】西浜徹
にしはま・とおる 一橋大経卒。2001年国際協力銀行入行。08年第一生命経済研究所入社、15年から経済調査部主席エコノミスト。新興国や資源国のマクロ経済・政治情勢分析を担当。42歳。福岡県出身。
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