カンボジアの縫製産業で賃金上昇圧力が高まり、急成長の阻害要因となりかねない雲行きだ。安価な人件費を背景に縫製関連の輸出入が国内経済を牽引(けんいん)する一方、縫製業に従事する労働者による賃上げ要求のデモやストライキが多発している。現地紙プノンペン・ポストなどが報じた。
カンボジア商業省によると今年1~3月期の縫製品の輸出額は13億4000万ドル(約1330億円)で、前年同期比17.5%増の伸びを示した。また縫製用の機械や素材などの輸入額は7億5300万ドルで同18.3%増となっている。
縫製産業が急成長している背景として、周辺諸国と比べて労働賃金が安いことが挙げられる。日本貿易振興機構(ジェトロ)の調査によると、プノンペンの平均月額賃金は74ドル。バンコクの345ドル、ベトナムの145ドルと比べて安価なことから、カンボジアに外資系縫製工場が続々と設置されている。カンボジア縫製協会(GMAC)には現在、約500社が加盟しているが、毎月4、5社が新規加入しているという。
一方、縫製工場では労働条件や賃金をめぐってストライキも多発している。5月末には、米スポーツ用品大手ナイキの縫製工場で、賃上げをめぐりストライキが発生。従業員3000人が警官隊と衝突する事件が起こったばかりだ。
政府は5月からGMACに加盟する縫製・履物製造企業に対し、月額最低賃金を61ドルから75ドルに引き上げる措置をとったが、国内にはGMACに加入していない零細企業も多く、工場の安全基準など問題が山積しているのが現状だ。労働問題の解決への道筋は今月実施される総選挙の争点の一つになるともされている。(シンガポール支局)