インドネシアで国民皆保険制度の導入に備え、製薬会社が生産体制を強化している。政府が来年1月に予定している制度導入が実現すれば医薬品需要の急増は確実とみられ、各社は資金調達や設備投資を急ぐ。しかし、政府は制度設計に手間取っており、国内では困惑との声も上がりはじめた。現地紙ジャカルタ・ポストなどが報じた。
米医療コンサル大手IMSヘルスによると、インドネシアで予定通り来年1月から国民皆保険制度が実施された場合、同国の医薬品市場の規模は2018年までに現在の倍となる96億ドル(約9400億円)に達する見通し。皆保険によって現代医療が急速に浸透し、医薬品の販売が急拡大するのが要因だ。
地場製薬大手カルベ・ファルマは制度導入を見越して昨年、1500億ルピア(約13億円)を投じて月産8700万錠の製薬工場をジャワ島西ジャワ州に建設、今年1~3月期から操業を開始した。同社幹部は「現在は生産能力のごく一部しか発揮していない。大量生産に入れば薬価も引き下げられる」と述べ、制度導入への期待をにじませた。
また、地場製薬会社ソーホー・グループは子会社の株式をドイツの製薬会社に売却するなどして資金調達を図っている。同社は今後10年で保険対象の医薬品300種の生産体制を整えるとしている。中心となるのは、特許期間が終了した医薬品を他社が製造する後発医薬品だ。
このほか、制度導入によって民間保険会社の事業拡大も見込まれている。米プルデンシャル生命保険の現地法人幹部は「国民皆保険によって基礎的な給付が確立されれば、民間企業はより高度で多様な保険商品を提供できる」と述べ、制度を歓迎する意向を示した。
同社の保険商品加入者数は今年6月時点で190万人。近年は所得増などで加入者が順調に増加し、08~12年の保険料収入は年25%のペースで増加した。同社は制度導入で増加ペースがさらに加速するとみる。
しかし、制度導入に向けた期待が各方面で高まる一方、肝心の政府による制度設計がいまだ完了しておらず、困惑の声も上がっている。
インドネシア雇用者協会幹部は「制度の全体像が見えないと、各方面への影響を推測することもできない」と述べ、政府の制度設計の停滞に対するいらだちをあらわにする。
任期満了まで1年を切ったユドヨノ大統領が、自ら目標に掲げた来年1月からの導入を実現できるのか、医薬品業界をはじめ、各方面からの注目が集まっている。(シンガポール支局)