目標だった環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)交渉の年内妥結が事実上断念されたことで、旗振り役の米国には大きな痛手となりそうだ。来年に中間選挙も控え、景気回復に向けた通商戦略の柱にTPPを位置付けるオバマ政権も求心力の低下が懸念される。
交渉参加国でも米国がTPPの年内大筋合意にことさらこだわってきたのは、景気回復の足取りが依然重い中で、オバマ政権が公約に掲げた「輸出倍増計画」の実現に向け、TPPが輸出拡大の推進力として欠かせないからだ。度重なる財政危機や外交の停滞で失点を重ねる中、TPP交渉の進展を実績として国民にアピールし、政権浮揚に結びつけたいとの思いも強い。
だが、政権2期目の審判を受ける議会上下両院の中間選挙まで1年を切り、年が明ければ選挙戦は本格化する。議会には、「日本の自動車や保険など非関税障壁の撤廃努力と市場開放が不十分」との声が強い。産業界を支持基盤とする議員はTPP交渉の行方に神経をとがらせる。難航分野の知的財産権で米国が強硬な主張を続けるのも、ハリウッドなどの映画・娯楽産業や製薬業界が権利保護を訴え牽制(けんせい)しているためだ。
「交渉加速の切り札」と期待された「大統領貿易促進権限(TPA)」の導入も暗礁に乗り上げている。大統領が議会に通商協定の修正を許さず批准の賛否だけを問えるTPAは、与党民主党にも反対論が強い。TPA抜きで協定を締結しても議会が骨抜きにする懸念があり、日本など各国は気をもんでいる。
長引くほど米国にとって懸念材料が積み上がり柔軟な対応が難しくなる。日本が参加し、韓国も関心を表明して複雑さを増すTPP交渉。米国がひそかに恐れていた泥沼にはまりつつある。(ワシントン 柿内公輔)