13年6月のサッカー・コンフェデレーションズカップの期間中には、ブラジル全土で100万人を超える市民が街頭に繰り出し、改善の兆しを見せない公的医療や教育などのソフトインフラへの投資を訴え、慢性的な政治汚職の追放を願った。ただし、与野党互いに脛(すね)に傷を持つ中で、大統領選の争点になりにくいのが実情だ。実際に、最近も与野党問わず、政治家による汚職の記事が紙面に踊る。
人口2億人を超えた市場がブラジルの魅力であり、そのことはサッカー・ワールドカップや16年のリオデジャネイロ五輪が終わっても変わることはない。人口ボーナスは2020年代も続くというのが通説だ。ただし、民間企業にとってブラジルが投資したい国なのかという設問に対して、最近は冷ややかな見方が増えている。現地進出日系企業へのヒアリング調査を通じて垣間見えるのは、ブラジルの諸制度が頻繁かつ複雑に変わることで、成功へのビジネスモデルが描き難く、1~2年先までに見通すことも難しいと述べる経営者が増えていることだ。民間投資がこれからのブラジルの経済成長のカギであり、ブラジル政府関係者からも日本企業の投資に高い期待が集まるが、同床異夢のような状況に陥っている。
14年に向けて、製造業がブラジル経済立ち直りの牽引(けんいん)役になることは衆目一致するところである。政府は13年4月から自動車新政策を導入したが、内製化の強化など保護主義的な色彩が濃い。高い税金や、人件費など構造的なコスト増による国際競争力の低下を前に、産業界では抜本的な改革を望む声が聞こえてくる。ルセフ政権の任期最後の年が始まろうとしている。(ジェトロ・サンパウロ事務所 紀井寿雄)