しかし、この発表が報じられると、デモを制圧したフン・セン政権に対してだけでなく、韓国大使館、さらには韓国政府に対する批判へと発展した。韓国大使館はその後、発表文を削除したが、今回の事態はカンボジア国民のフン・セン政権に対する不満だけでなく、外国企業そのものへの不信感を助長するものとなった。
◆焼き畑型進出の限界
同様の懸念は、ベトナムでも起きている。フランス通信(AFP)によると、今月9日、ベトナム北部のタイグエン省にある韓国サムスン電子の工場で、労働者による暴動が発生し、13人が負傷、うち4人が重体となった。
地元メディアは、遅刻して敷地内に入ろうとした労働者を警備員が殴ったのが発端という。これに怒った他の労働者が警備員らに投石し、工場に火を放つなどした。地元警察は今後、原因について詳しい捜査を進めるとしている。
ベトナムやカンボジアでは、そもそもデモやストなどは制限されているため、今回のような暴動が起きることはほとんどなかった。各国での民主化の動きに加え、中国やタイでの最低賃金の引き上げの動きなどから、他の国でも最低賃金引き上げを求める声が強まった。カンボジアのストは、月100ドル(約1万400円)から160ドルへの引き上げを要求するものだった。ベトナムの月額賃金も現在90~130ドル程度だが、最低賃金の引き上げを求める声は一段と強まりそうだ。
ベトナムやカンボジアと並んで服飾工場が多いバングラデシュでも、待遇改善を求めるデモが騒乱へとつながった。安い労賃だけを追い求める「焼き畑型」の進出スタイルが、もはや限界に来ていることを一連の騒動は示しているようだ。(編集委員 宮野弘之)