ヤンゴン市内にある医療支援会社インターナショナルSOSヤンゴンの拠点。レントゲンなどの設備も整う【拡大】
■収入・環境悪く 止まらぬ国外流出
ミャンマーに進出している日系企業は、昨年末で150社近くとされ、出張ベースで滞在する日本人も多い。ヤンゴン市内では家族連れの日本人駐在員の姿も見かけるようになった。しかし、東南アジアのなかでもミャンマーはとくに生活環境が厳しい。医療・衛生面ではミャンマー人でさえ苦労している。長年の欧米の経済制裁で医療設備が古いだけでなく、医師や看護婦も絶対数が不足しているためだ。日本もさまざまな支援を行っているものの、改善には時間がかかりそうだ。
◆強制的に医学部進学
ミャンマーに行くと医学博士に会うことが多い。長年、高校の成績最上位の学生を医学部に進学させてきたからだ。昨年から工学部が最優先となった。今は他に行きたい学部があるなら認められるものの、昔は本人の意志と関係なく、強制的に医学部に行かされた。
その反動だろうか、医師になって別の道に進む人も多かった。実際、ミャンマーで大臣や企業経営者、ジャーナリストなどに会うと、ドクターの肩書を持つ人が多いが、そのほとんどが医学博士だ。先週、ヤンゴンで久しぶりに会った友人のコ・ター氏も外科医でありながら、ミャンマー人なら誰でも知っている人気作家だ。
現地で取材を助けてくれる本紙通信員のゾー・タン氏も医師として国連平和維持活動(PKO)に参加したことがあるとともに、地元では有名なジャーナリストだ。以前、彼になぜ医師であることを辞めたのか尋ねたことがある。彼はミャンマーでは、医師はアルバイトをしなければ食べていけないからと笑って答えたものだ。
ミャンマーで大学を卒業した医師や看護師は国立病院に配属されるが、そこの給料だけでは足りず、民間クリニックを掛け持ちするのが普通だという。掛け持ちは公認で、午前中は国立病院、午後からはクリニック、もしくは曜日によって変わるという。
一方、卒業後に設備の整った外国で研究や医療活動をする医師も多い。英国の医師免許制度が基になっているだけに、隣接するマレーシアではミャンマーの医師免許がそのまま通用する。シンガポールも一般医(GP)なら比較的簡単に免許を取れるとか。せっかく強制的に医師を育成しても、多くが国外に流れ、国内の医師不足はなかなか解消されないというジレンマに陥っている。
◆緊急時はヘリで搬送
以前、ヤンゴンの住宅地に開院したばかりのクリニックを取材した。院長は政府や国軍関係者ともつながりが深く、ヤンゴンの富裕層が主な顧客だ。3階建てのクリニックは、診察室を見ても少数の医療機器があるだけで、治療設備などはほとんどない。院長は「ここでは診察をするだけで、入院や手術が必要ならバンコクの病院へ送るから余計な設備は要らない」と話した。1階には院長が経営する旅行代理店のカウンターもあり、「診察して、タイに行くのが必要ならすぐに航空券も買える。ワン・ストップ・サービスだ」と院長は笑う。富裕層は、はなからヤンゴンで治療を受けるつもりがないのだ。
ヤンゴンの外国人駐在員や旅行者が頼るのが、国際的な医療支援会社だ。
例えばインターナショナルSOSヤンゴンは、医師と看護婦が24時間常駐し、診察・治療を行う。もし手術が必要な場合、常に連携している地元病院の手術室で、同社の医師が立ち会うなどして行う。さらに高度な手術が必要な場合はタイの病院へ、ヘリコプターで搬送するという。世界各国の保険会社と提携しており、キャッシュレスでの対応が可能だ。
ヤンゴンには、日本の保険会社も駐在員事務所を置くなどしているが、地元病院の情報には疎いようだ。紹介している病院のなかには、すでに移転してしまった病院や、午前中だけなのに終日診察可能としている病院もある。今後さらに駐在員や旅行者が増えるだけに、病院だけでなく医療の実態を含めた最新の情報提供が必要だろう。(ヤンゴン 宮野弘之)