末端価格より安く
博社村が属する汕尾市は、1980年代に経済改革の花形となった深●(=土へんに川)、スワトーという経済特区の間にある。両経済特区のいわば谷間となって、博社村を含む汕尾市一帯は繁栄から取り残されてしまった。
皮肉なことに、市場経済が活性化し、香港などとの往来が増えると、急速に「需要」を増したのが麻薬や覚醒剤だった。同じ密造なら、村内で精製作業や販売を分業した方が効率が上がる。村の幹部を巻き込んで覚醒剤製造が始まったのは、こうした地域格差と、ゆがんだ経済原則が原因だと指摘されている。
だが、薬物犯罪が許されるはずもない。広東省の警察当局者によれば、博社村の覚醒剤は、香港や台湾のほか、日本にも流れていた。昨年12月、広州の空港で拘束された日本人男性が所持したとされる覚醒剤も、「汕尾周辺で製造された可能性が高い」(地元幹部)という。
博社村での覚醒剤の販売価格は一般の末端価格より安かったため、「村の収入は決して多くなかった」という。推測だが、これだけ長期にわたり密造が摘発を逃れてきた裏には、村外への“上納金”もあったはずだ。私腹を肥やしたのは誰だ? 村民の表情は無言の問いを投げかけていた。
(中国広東省博社村 矢板明夫)
中国の薬物犯罪
共産党政権下で撲滅されたはずの薬物犯罪は、市場経済の中で復活。薬物中毒は昨年5月時点で222万人にのぼる。東南アジアの「黄金の三角地帯」や北朝鮮などからの密輸品のほか、広東省などでの密造品が流れている。中国の裁判所は昨年だけで、薬物犯罪で10万人近くに死刑を含む有罪判決を下した。50グラム以上の所持で死刑が適用され、日本人も中国で処刑されている。