ところが97年秋以降、翌98年にかけ、すべての経済指標がマイナスとなり、完全にデフレ不況の様相に転じた。これがすべて4月の消費税率引き上げだとするのが、ここでいうトラウマ現象である。
しかしながら、その判断はあまりに短絡的であろう。このような状況を作り出した要因の一つとして、消費税率2%の引き上げに伴う約5兆円だけが国民への負担増でなかったという事実がある。これ以外にも、所得税減税のうち特別減税分の2兆円の中止、さらに9月から実施された社会保険料の2兆円増が重なり、国民負担増は9兆円規模になったことが挙げられる。
◆アジア危機と金融危機
しかし、もっと重要な要因が国内外に、2つあった。一つは7月以降、タイ、インドネシア、韓国などの通貨問題を背景にしたアジアの経済危機であった。もう一つは、秋以降、国内に大型の金融機関の連続倒産が発生したことである。北海道拓殖銀行、山一証券、三洋証券などが経営破綻により、相次いで姿を消すことになった。97年秋以降の日本経済の落ち込みは、9兆円の国民負担増もあろうが、私自身はこのような経済混乱の方がはるかに大きかったと思っている。少なくとも、消費税増税のみに一方的に責任を負わせるのは不公平であろう。
97年度の消費税率引き上げに伴い起きたこのようなデフレ効果は、今回はあまり心配することはないと思われる。その最大の理由は、97年当時、バブル崩壊後、日本経済の回復の足を引っ張り続けてきた不良債権問題が今日すっかり解消され、金融システムは安定しているからである。
現在公表されている景気見通しもその大半が、税率引き上げ直後の4~6月期には成長はマイナスに落ち込むが、7~9期以降はプラスに転じるとみているのは、このためであろう。
◇
【プロフィル】石弘光
いし・ひろみつ 1961年一橋大経卒。その後大学院を経て、講師、助教授、教授、学長。専攻は財政学。経済学博士。現在、一橋大学ならびに中国人民大学名誉教授。放送大学学長、政府税制調査会会長などを歴任。76歳。東京都出身。