「だって夏でしょ」
北京を訪問された某女性大学教授の方がおっしゃった。
「なんでみんな帽子をかぶらないの? 帽子が日常ファッションのレベルに達するのは、まだ早いって感じなのかしら」
先生、それは誤解です!
北京の気候は厳しい。夏は40度近くまで上がり、冬は零下10度にまで下がる。頭を保護しないと、夏は日射病になり、冬は風邪をひく。帽子は彼らの生活必需品だった。夏は屋台の帽子売りだって出現する。
先生のおっしゃるように、確かに近年、帽子が減った。理由はただひとつ、中国人がお金持ちになったからである。生活手段が、自転車から車にまるごと移行したため、帽子の必要が激減したのだ。
最近つくづく思う。
「みんな私よりお金持ち!」
友人同士での会食後。中国人は「拜拜(バイバイ)!」と手を振り、車のキイを手に、駐車場へと降りていく。私たち外国人は、拾えるあてのないタクシーを求め、小一時間ほど路上でタクシー難民と化す。
北京では渋滞緩和策として、車のナンバープレート末尾の数字による通行規制を実施している。マイカー通勤が当たり前の中国人、週に一度、運転できない日が生じている。
「じゃあ、その日は地下鉄かバスで通勤するのね」
私が当たり前のことを聞くと、とんでもない答えが返ってくる。
「それも不便だから、もう一台買っちゃった」
友人と行った火鍋屋さん。隣のテーブルに座った学生風の女の子がヴィトンのバッグを持っている。本物なら30万円か。でもまさかねえ。しかし友人、あっさり答える。「絶対本物」
そんなバカな! どう見ても普通の女の子である。お金持ちのおじさまに買ってもらったとはとても思えない。
その夜私は、自分の安物バッグをすべて処分した。
極めつけは友人のお父様。
「今度父は、オーロラを見に南極に旅行するんだよ。費用? 13万元(約211万円)くらいかな」
決して富裕層の話ではない。すべて「普通の人々」である。
こんな景気のいい「普通の人々」、彼らは基本、日本製品が大好きで、温泉と日本食と富士山の大ファン。
ん? 日本にとって、いいことばかりじゃないですか。普通の皆さん、ぜひ日本に来てくださいね。歓迎歓迎、熱烈歓迎!
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青樹明子氏の連載は隔週で掲載の予定です。
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【プロフィル】青樹明子
あおき・あきこ 愛知県生まれ。早大一文卒、同大学院アジア太平洋研究科修了。世界数十カ国を取材する一方、1995年から中国北京に留学。北京人民ラジオ局などで、約10年、中国人向けの日本語放送プロデューサー、パーソナリティーを務める。2013年12月に帰国。