米国市場のように漸次HFT取引が拡大した状況に比べ、日本では10年に東証のアローヘッドが稼働を開始しようやく本格的な高速取引が可能となったためにそれ以前の市場との比較が容易になっている。そうした条件を基に本年1月の日銀レビューが「株式市場における高速・高頻度取引の影響」を分析している。それによるとHFT取引開始によって流動性供給効果(=売買を容易にして執行コストを低減する効果)、ボラティリティー抑制効果(市場の振幅を小さくする効果)などが観察されている。もちろん10年5月に米国で発生した「フラッシュ・クラッシュ」のような事件やプログラミングのエラーなどHFTの先進性が内包する独自の問題への対処は欠かせないが、情報がオープンにされた市場でのテクノロジーの発達による投資家の受けるメリットは大きい。
一方で「フラッシュ・ボーイ」の中ではHFTに影響されない独自の取引網として登場する「ダーク・プール」という問題もある。これはテクノロジーの進歩とは別に、例えば米国では証券会社内クロスのように昔から存在するものだが、簡単に言えば取引所を介さない取引所外取引のことである。
ロイターによると6年前には全取引の16%であった市場外取引が現在は40%にも達しているという。こうした売り買いを外部に見せない閉鎖的な取引には価格情報を集約し公平な価格形成が期待される取引所の価格発見機能を損なう可能性が指摘されている。
大口注文の処理の観点からすべてがオープンであるべきだと主張する気はないが、適正価格を提示できない取引所は、結局は市場参加者の余分な負担となる。つまりこの場合も誰かに上前をハネられるということで、HFTだけを悪者と指差すことには同意できない。だいいちHFTは既にもうあまりもうからなくなっているそうだ。(作家 板谷敏彦)