物語はいうまでもなく言葉によってつむぎだされる。歴史学者の岡田英弘・東京外語大学名誉教授は、近代化を先に成し遂げた日本は、あらゆる西洋の知識を漢字によって翻訳していたから、日本語の語彙が漢字文化圏の言語に取り入れられた影響は、法律用語ばかりではなく、情緒のある文学作品の創造まで、決定的であった、と説く。
花園神社の参拝を抜けて大通りに出ると、地図を片手にした大勢の訪日観光客に出くわす。百貨店の「福袋」が人気だったようだ。大雪の京都で過ごした友人からのメールは室生寺の五重塔の写真が添えられて、かの地の寺々もまた中国人観光客であふれているという。
日本における欧州美術の第一人者である田中英道・東北大学名誉教授とかつて、そうした寺院の仏像を巡った記憶が蘇(よみがえ)る。東大寺法華堂の日光・月光菩薩像や戒壇院の四天王像など、天平時代の傑作は、ルネッサンス期のミケランジェロにも匹敵するひとりの仏師によって作られた、とする卓見を説かれた。「国民の芸術」(産経新聞社刊)に詳しい。
信仰の対象である仏像を美術品として眺めるとき、まったく新しい物語がみえてくる。そして、美の巡礼の旅に出てみようという「コト消費」が生まれる。
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【プロフィル】田部康喜
たべ・こうき シンクタンク代表 東北大法卒、ソフトバンク広報室長などを経て現職。60歳。福島県出身。