【ワシントン=小雲規生】中国が目指す人民元の国際的な主要通貨としての地位獲得をめぐり、米国や国際通貨基金(IMF)を巻き込んだ論争が広がっている。IMFは現在の人民元レートは適正だとして、人民元の主要通貨としての地位を後押し。一方、ルー米財務長官はIMFの見方に異議を唱えるかたちで人民元相場のあり方に不信感を示しており、食い違いが浮き彫りになっている。
論争の発端はIMFのリプトン筆頭副専務理事が5月26日に北京で行った記者会見だ。リプトン氏は「人民元はもはや過小評価されていない」と述べ、中国が人民元安を誘導して不当に輸出を後押ししているとする長年の批判を否定した。
中国は人民元の地位向上を目指し、IMFの準備資産の構成通貨に人民元を加えるよう求めてきた。
特別引き出し権(SDR)といわれる準備資産は、通貨危機時などに加盟国同士の通貨交換などに使われ、ドル、ユーロ、ポンド、円の4通貨で構成。構成通貨に採用されれば事実上、国際的な主要通貨として認められる。
人民元相場は2005年の固定相場制度廃止後、対ドルレートで約25%人民元高に触れた。これに伴い中国の経常黒字の対国内総生産(GDP)比も07年の10%から14年には2%まで低下。リプトン氏は「大きな前進を見せた」と貿易不均衡の縮小を評価する。
リプトン氏が人民元相場の水準を適正と認めたことは、人民元が構成通貨入りに近づいたことを意味する。IMFは年内に構成通貨を見直す方針だ。
しかし人民元相場は中国人民銀行(中央銀行)が決める基準値に対する変動幅が設定されている「管理変動相場」で、ドルや円などの完全な変動相場とは異なる。また最近は中国経済の減速を受けて人民元高の流れが弱まり、米財務省高官は「中国にはまだ成すべきことがある」と断じる。
ロイター通信によると、ルー氏は5月27日、「中国は本当に市場が為替レートを決めることを受け入れるのか」と発言。人民元の構成通貨入りには、中国経済が力強さを取り戻した場合に、人民元高を容認するかどうかを見極める必要があるとの見方を示した。
ある国際金融筋は「中国が変動相場に移行するには、資本の自由化などにも取り組む必要がある。人民元の構成通貨入りは時期尚早だ」としている。