円ドルレート【拡大】
米国の年内利上げ観測で前週末から外国為替市場で円安ドル高が進んだことで、市場関係者からは「日銀の追加金融緩和は遠のいた」との指摘が挙がっている。追加緩和で円安がさらに進行すれば、物価が上昇して消費を冷やしてしまう恐れがあり、日銀の金融政策の“手足”を縛りかねない。
日銀は10月30日の金融政策決定会合で2%の物価目標の達成時期を先送りしたにもかかわらず、追加緩和を見送った。賃上げが進まない中、「追加緩和による円安で無理に物価を引き上げても消費が冷え込んでしまう」(幹部)ためだ。
しかし、9日の外国為替市場の円相場は、10月の米雇用統計が市場予想を大きく上回ったことを材料に、一時1ドル=123円台半ばまで円安が進んだ。
この円安水準が続けば、日銀は追加緩和に踏み切るのが難しくなる。「1ドル=125円という『黒田ライン』があるから」(市場関係者)だ。
日銀の黒田東彦総裁は6月、約13年ぶりの円安水準となる125円台後半をつけた際、「さらに円安はありそうにない」と国会で発言。これを市場は「円安牽制(けんせい)発言」と受け止めている。SMBC日興証券の牧野潤一氏によると、日銀が年内に追加緩和に踏み切った場合、7円程度円安になる。予想通りであれば、黒田ラインを超えることになる。
来夏に参院選を控える政府内でも、円安を助長する追加緩和への慎重論が広がっていることも足かせとなっている。
さらに環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)の参加12カ国が、輸出増を目的にした自国通貨の相場切り下げをしないことで合意。通貨安競争を避ける狙いとみられ、1カ月余りで10円超も円安に振れた昨年10月末のような追加緩和はやりづらい。