「日本は自分の都合で支援をするが、本国の発展は自分たちの問題だ。日本が口を出さずに自分たちの志を支援するなら受け入れる」
この考えは「ホズミ・スピリット」としてタイへの産業人材育成支援の基本原則となり、今日まで貫かれている。その証左はTNIの校庭に設置された穂積五一の銅像だ。
インフラや経済活動の支援は、即物的に目に見える結果で、国家間のウィンウィン(相互利益)の関係をもたらすが、人材育成のようなソフト支援の成功には、人間の精神の分野でのモメンタム(契機)が不可欠である。
いま、タイの元日本留学生たちの成功例を見て、東南アジア諸国連合(ASEAN)各国の知日人材の間に、同じような人づくりのプロジェクトが動き始めている。
ミャンマーの日本留学経験者が集まって、タイのケースを学び、いたずらに巨額のODAを求める事業を避けて、志を立てて長期に取り組む主体的な事業を始めている。
日本側の関係者も、彼らの志に応える新たな取り組みを模索しはじめた。それが、今年から検討が始まっているミャンマー人材育成支援に関する産官学コンソーシアム形成の動きだ。留学生対策の重点対象国であるミャンマーについて、関係各省、企業、大学が参加し、さらにミャンマー側諸機関や留学生の現役・OBが加わって、現場での情報や志を共有し、短期的に日本留学生の数を増やす施策を展開するだけでなく、中長期的に日本留学経験者の志を支援して、幅広い知日人材のネットワークを形成しようとしている。
官邸など国の中枢で産官学の施策を統合する試みはあるが、いったん各省や各機関に展開された後は、縦割りで実施されるのが常であり、このように現場中心に施策実施を統合するのは初めてのケースである。このミャンマーの試みは、他の新興国に対する日本の人材支援策の基本モデルとして、横展開されることが期待される。
◇
【プロフィル】土居征夫
どい・ゆきお 東大法卒。1965年通商産業省(現経済産業省)入省。生活産業局長を経て94年に退官。商工中金理事、NEC常務を経て、2004年企業活力研究所理事長、11年7月から現職。74歳。東京都出身。