【論風】消えたフィリップス曲線 アベノミクス第3の矢 全力で (1/3ページ)

2016.8.4 05:00

 □経営共創基盤CEO・冨山和彦

 消費税増税が再延期となった。アベノミクスに誤算があったのか?

 消費や投資マインドにとって、デフレは好ましくないし、為替の正常化はグローバル企業の業績、株価やそこで働く正社員の賃金にはプラスに働く。この点、アベノミクス第1の矢である大胆な金融緩和は奏功している。

 他方、円安は地域密着のローカルな経済圏にはあまりメリットがない上に、今やわが国ではこの領域で働く人々が全体の7~8割を占めている。これは米独でも共通の構造的な現象で、円安にこの比率を逆転する力はない。これもある意味、はじめから分かっていたことで、だからこそ2年前から安倍晋三政権はローカルアベノミクスとして長期的な成長施策である地方創生を始動している。

 ◆米国でも連動性薄れる

 次に金融緩和から物価上昇への道筋として期待されるフィリップス曲線、すなわち失業率低下が物価上昇と連動する現象が、なかなか顕著に起きない問題がある。実は米国も同様で、大胆な金融緩和後、歴史的な低失業率が数年にわたり続いているのに、賃金も物価も上昇ペースが鈍い。もはやタイムラグでは説明困難な「フィリップス曲線の消滅」(正確にはフラット化)である。

 グローバル化の時代、「モノ」は世界中からどんどん入ってくるので、国内の失業率が下がっても、そうそう価格は上がらず、企業も賃金を上げにくい。急成長中のインターネット系ビジネスに至っては、限界費用ゼロで無尽蔵に供給できる。今や国単位の金融政策が物価に及ぼす効果は限られているのだ。加えて、新興国経済の減速で、「モノ」の世界はますます供給過剰。

 すなわちこの問題は、日本の政権である安倍政権でどうなる問題ではない。言い換えれば、世界中、誰が、どこで、どんな経済政策を打っても克服できない根深い構造問題である。

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