実際、トランプ氏本人も春先に、「日本からは数百万台の自動車がやって来るが、米国勢はほとんど日本では売っていない」と発言。「(建機大手の)コマツに(米の)キャタピラーがやり込められているのは、為替操作が原因だ」とした。
米国で新政権が発足する来年以降、米国から日本経済に向かい風が吹く可能性がある。日米貿易摩擦が最高潮に達した1980~90年代の対日観を根強く持っているトランプ陣営はもちろん、民主党候補のヒラリー・クリントン氏も日本の為替政策をやり玉に挙げる可能性があるからだ。
「日本や韓国など、米国への輸出国には圧力が加わる」と言うのは、米外交問題評議会(CFR)の上級フェロー、ベン・スティール氏。「仮にクリントン政権が誕生した場合、円安誘導策を牽制(けんせい)する公算が大きい」と予想する。
クリントン氏は現実主義者だ。同氏は「現在はTPPに批判的だが、当選したら手のひらを返したように推進派に回る」とみる。
そこで、雇用に悪影響を与えるドル高(円安)を懸念する米議会を納得させるために、「日本の円安を押さえ込むことを公約する」(スティール氏)。TPP成立のために、日本の為替政策がいけにえになる-という読みなのだ。
また、クリントン氏は多くのウォール街関係者が支持している。大口献金者の中には、日本での活動で「ハゲタカ」とののしられた投資会社経営者がおり、日本企業への投資や買収で失敗した恨みを持っている。
ただでさえ、最近の米投資会社は運用成績が低迷し、ストレスがたまっている。「クリントン政権ができれば、大口献金者だった投資会社がロビー活動をして日本企業に圧力を加える」(外交筋)という、金融危機前までみられたウォール街と米政府の共同歩調が復活する可能性もある。
(ニューヨーク駐在編集委員 松浦肇)