海外情勢

国連制裁は骨抜きに、過酷な条件で働く北労働者 中国黙認

 国連制裁決議が加盟国に義務付けた北朝鮮人労働者の送還期限から2020年12月で丸1年が過ぎた。北朝鮮は新型コロナウイルス流入阻止を掲げて国境を封鎖。中国では依然、多数の労働者が帰国できず、自由のない過酷な条件で働く。レストランへの集団派遣も広がり、制裁は骨抜きになっている。

 「偉大なわが国家のために」。北朝鮮歌謡が流れ、壁には金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長(現党総書記)への忠誠を訴えるスローガン。氷点下に冷え込んだ12月、中国東北部の小さな部品工場を訪れると、数十人が黙々と作業していた。

 21年1月の党大会に向けた増産運動「80日戦闘」の目標達成を呼び掛ける張り紙や、コロナ予防を理由に一切の外出を禁じる注意書き。全てがハングルで書かれ、北朝鮮の工場がそのまま引っ越してきたかのようだ。

 北朝鮮と国境を接する吉林省や遼寧省にはこうした工場が多く、製品は中国製として韓国などに輸出される。「北朝鮮人は朝から晩までよく働き、賃金は中国人の3分の1。雇う側としてはありがたいが、自由が一切ないのは事実だ」。工場関係者が言いにくそうに口を開いた。

 労働者らはグループで派遣され、工場敷地内の寮で集団生活を送る。多くは20代の女性だ。髪を切ったり、簡単な病気の治療をしたり、全て仲間内で完結する。徹底した監視下に置かれ、携帯電話所持は言うまでもなく、中国のテレビを見ることも許されない。20年1月末からの国境封鎖で家族に送金はできず、安否を確認するすべもない。いっこうに帰国のめどは立たず、別の工場関係者は「夜になると誰かが泣きだし、他の子にも伝染する」と語る。

 中国の地方都市で働く北朝鮮人労働者の月給は2000元(約3万2000円)前後だが、国への上納分を含め、大半を北朝鮮の派遣元の組織が徴収。国への上納分は月に1人100ドル(約1万円)との情報もある。本人に残るのはひどい場合、1割の3000円程度。それでも国境封鎖前、志願者は絶えなかったという。「外貨があるかないかで北朝鮮での生活は天と地の違いがある」(脱北者)からだ。

 国連制裁で第三国から引き揚げ、中国で働く北朝鮮人女性も多い。北京では有名店を含めて中華料理店での雇用が目に見えて増え、数十店に上るとされる。異口同音に「実習中。お金はもらっていない」と語る。しかし南北関係筋が明かした一例では、派遣元に支払われる賃金は日本円換算で月約6万円。本人の取り分は約1万2000円、北朝鮮大使館関係者に約3000円が渡るという。

 米国務省高官は、中国が北朝鮮の制裁逃れに加担し、2万人以上の労働者を受け入れていると非難。バイデン次期政権は制裁履行圧力を強めるとみられ、労働者は米中朝のはざまで翻弄され続ける。(北京 共同)

【用語解説】北朝鮮人出稼ぎ労働者

 北朝鮮は外貨稼ぎのため世界各地に労働者を派遣してきた。国連安全保障理事会は2017年12月、北朝鮮の核・ミサイル開発に対する制裁決議で加盟国に「自国内で収入を得ている北朝鮮国籍者」を2年以内に送り返すよう義務付けた。米政府は当時、総数10万人近くのうち約5万人が中国、約3万人がロシアにいるとの推計を発表。金正恩(キム・ジョンウン)体制が年間5億ドル(約517億9000万円)を得ているとも指摘した。賃金の相当額を北朝鮮政府や派遣元が徴収し、米国や人権団体は強制労働だと批判してきた。(北京 共同)

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