海外情勢

ナイル川の船旅がコロナ禍で存続危機 ガイド失職、苦しむ「観光史の象徴」

 百数十年の歴史を誇るエジプトのナイル川クルーズが、新型コロナウイルスの影響で存続の危機にある。2020年3月には日本人客らが感染、当局による営業禁止を経て運航は再開されたが、客足は消えた。英実業家のトーマス・クックが開発した「観光史の象徴」が苦しんでいる。

 再開も客足戻らず

 昨年12月中旬のエジプト南部アスワン。気温は30度近い。5階建ての「青い影号」が滑るようにナイル川を下っていた。数週間前に再運航したばかりだが、乗客は27人で船室の約8割が空室。「外国人客は消え、ほぼエジプト人客になった」と営業責任者のハニー・ナスリさん。再運航したクルーズ船は同国の大小約300隻のうち15隻。職員約1万2000人の雇用が脅かされている。

 ナイル川クルーズは1880年代、産業革命による技術の発展を背景にクックが開発。客船でゆったりと古代遺跡を訪問できると、欧米の富裕層にブームを巻き起こした。ミステリーの女王、アガサ・クリスティの小説に取り上げられ、日本人ファンも多い。ガイドや飲食業の雇用を生み、アスワンから南部ルクソールの300万人の暮らしを支えてきた。

 しかし昨年3月、エジプト当局はクルーズ船で45人が新型コロナに感染したと発表。日本人を含む観光客の感染が発覚した。エジプトは国境を封鎖し、2019年に年間1300万人を集めた観光産業は一時消滅した。

 エジプトは医療体制が不十分で、新型コロナ対策が整っていないとみなされている。当局は外貨を得るため昨年7月に国境を開き、10月には客数に上限を定めてクルーズを再開したが客は戻らない。

 国内需要喚起難しく

 エジプト人は古代遺跡に関心が薄く、国内需要の喚起は難しい。欧州で感染が続く影響で年末年始の客もない。観光業組合アスワン支部のハイリ・アリ支部長は「イスラム過激派のテロでも『アラブの春』でも客足は落ちたが、これほどの危機は初めて。あと1年続けば全ての船が廃業だ」と訴える。

 アハマド・カメルさんは旅行会社の運転手だったが解雇された。「工事現場やスーパーで働いたが全部解雇された。街に仕事がない」と訴える。ショクリ・サイードさんはガイドを失職して首都カイロで転職したが「長く学んだガイド業とも古代史とも無関係な仕事」と嘆く。ベテランガイドの失職が続けば、観光業界の復興も難しくなるとの懸念が広がっている。(アスワン 共同)

【用語解説】ナイル川クルーズ 古代遺跡が点在するエジプトのナイル川を大型客船に寝泊まりして移動する旅。南部ルクソール-アスワンを4日ほどで結ぶ旅が一般的。英実業家のトーマス・クックが19世紀、産業革命による経済発展や蒸気船開発を背景に立ち上げた海外旅行の方式で、パレスチナ観光と合わせて人気となり「近代観光史の象徴」となった。英推理作家、アガサ・クリスティの小説「ナイルに死す」(1937年)の舞台。(アスワン 共同)

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