海外情勢

「チョコレート戦争」膠着で農家受難 カカオ豆生産国、製造者と補償対立

 カカオ豆の価格設定をめぐる生産国とチョコレート製造メーカーの「チョコレート戦争」が膠着(こうちゃく)状態に陥っている。その最大の被害者は本来支援を受けるはずの世界有数のカカオ豆の産地、コートジボワールのカカオ豆農家だ。

 生活支援裏目で代償

 コートジボワールは隣国ガーナと連携して、米ハーシーやスイスのネスレなどチョコレートメーカーに対し、強制的に「LID」と呼ばれるカカオ豆1トン当たり400ドル(約4万2000円)の補償金を支払わせようとした。西アフリカの両国は合わせて世界のカカオ豆供給量の約7割を占める。

 LIDは貧しいカカオ豆の生産農家の生活支援を目的としたが、2年もたたないうちにそのもくろみは裏目に出た。新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)でパリやロサンゼルスなどがロックダウン(都市封鎖)され、チョコレートの需要が落ち込み、コスト削減に努めるメーカーなどはLIDの支払いを拒否。ハーシーは昨年、カカオ豆の先物価格が現物スポット価格を下回ったのに乗じて、ニューヨーク先物市場で大量の豆を調達し、物議を醸した。

 多くのカカオ豆取引業者や加工業者、チョコレート製造メーカーにとって、カカオ豆の価格押し上げを図る生産国の試みは需要と供給のバランスに欠けており、カカオ豆農家が今、その代償を払っている。需要低迷をよそにコートジボワールが生産量を拡大した結果、売れ残ったカカオ豆は奥地の倉庫に積み上がってしまった。

 生産農家は自暴自棄になり、国に行動を求めて、業界の規制当局コーヒー・カカオ協会(CCC)の事務所の外で寝泊まりする者も出ている。その中の一人で、ダロアに8ヘクタールの農地を持つ45歳のババ・カンペさんは「カカオ豆の出荷が停滞している。子供たちを養うのに苦慮している」と窮状を訴える。

 30年来、業界を見てきた英証券会社マレックス・スペクトロン・グループで農業部門の責任者代理を務めるジョナサン・パークマン氏は、「農家は全てのことにうんざりしている。健全な経済に基づかない、この非現実的な理想の世界を約束されたからだ。農家を助けるものではなく、彼らの邪魔をしている」と指摘する。

 プレミアム値引きか

 業界団体の世界カカオ財団(WCF)によると、平均的な西アフリカのカカオ豆農家の農地面積は3.5ヘクタール未満で6~8人の家族を養う。コートジボワールのカカオ豆農家の半数以上の所得は貧困線を下回るが、作物を販売できず保管するすべもない。仲介業者が支払う額は政府が提示する最低価格を下回っており、コートジボワールは今シーズンの収穫物を出荷するために大幅に値引きせざるを得ない状況にある。

 CCCのマネジングディレクター、イブ・コネ氏は1月中旬に国営テレビで「悪徳バイヤー」が農家への支払いを減らすためにこの機に乗じていると牽制(けんせい)し、パンデミックと輸送コンテナの確保が困難なせいで業界が苦悩していると主張した。

 ただ、複数の取引業者によれば、コートジボワールは最近、カカオ豆を大幅に値引きして売却したという。LIDは据え置かれたものの、最高級の同国産カカオ豆に対して支払われるはずのプレミアム(上乗せ価格)が1トン当たり150英ポンド(約2万1500円)相当の値引きになってしまった。コネ氏はこの数字を否定している。

 マレックスのパークマン氏は「LID制度はもう駄目だといえるだろう」と話す。

 もっとも、新型コロナウイルスの感染拡大で世界の市場が混乱する前から、業界専門家らは価格の上昇が過剰生産につながるとして、コートジボワールとガーナのやり方は破綻すると警告していた。

 2018年に引退するまで50年間カカオ豆の取引に携わっていたデレク・チェンバース氏は「特に需要が落ち込んでいる折に、多くのカカオ豆に対してさらなる高値を保証できる人などはこの世界にはいない」と語る。

 コートジボワールのウフェボワニ初代大統領(当時)は1987年、カカオ豆の価格を押し上げるために禁輸措置を講じたが、2年余りの禁輸期間中に価格は半分以下になった。チェンバース氏はこの経緯を記した本『ザ・カカオ・ウォー』に触れ、CCCはもっと悪い結果を招くことをやっている可能性があると警鐘を鳴らした。(ブルームバーグ Isis Almeida、Leanne de Bassompierre)

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