海外情勢

マスク氏、「通信」の野望 衛星ネットで遠隔地に高速ブロードバンド

 1月に世界一の富豪に上り詰めたイーロン・マスク氏は電気自動車(EV)の量産で世界の自動車産業に強烈な影響を及ぼし、再利用可能なロケットで宇宙航空業界の巨人企業を慌てふためかせた。そんなマスク氏が現在、新たに目標を定めているのが「通信」業界だ。

 低軌道960基の大群

 マスク氏が率いる米宇宙開発企業スペースXは衛星インターネットサービス「スターリンク」用に1000基以上の衛星を打ち上げ、米国や英国、カナダで新しもの好きの顧客を獲得している。スペースXが狙うのは、機内インターネットや海上業務、中国、インド、そしてブライアン・レンデル氏のように遠隔地に住む顧客の需要からなる1兆ドル(約105兆円)規模の市場の一部だ。

 同氏はミシガン州アッパー半島で五大湖の一つ、スペリオル湖を見渡す160エーカー(約64.7ヘクタール)の農場で長年、インターネットの速度が遅いと悩んでいた。昨年11月にスターリンクのテスターになり、約500ドルの機器代を支払うと、フェデックスでパラボラアンテナなどのキットが到着。現在、月額99ドルでダウンロード100メガバイト毎秒、アップロード15~20メガバイト毎秒と、回線速度はこれまでのプロバイダーより格段に速くなったという。

 メンタルヘルスカウンセラーの同氏は「これは大変革だ」と強調する。今ではすぐに映画を観賞したり、顧客とビデオ会議「ズーム」で会議を開くことができ、「再び現代社会の一員になった気がする」と明かす。

 スペースXはスターリンク衛星60基を搭載したファルコン9ロケットの打ち上げを数カ月間行い、1月20日には17回目を実施。現在、地球低軌道にあるおよそ960基の衛星はメガコンステレーション(巨大な衛星網)の時代の到来を告げるもので、天文学者らは地上からの天文観測に及ぼす衛星網による影響を懸念するほどだ。

 地球低軌道にあるスターリンク衛星の大群は従来の衛星よりも地球に近い場所にあり、スペースXが北米や英国と、十分広域にサービスを展開できる。衛星の数が増えればサービスエリアは広がり、潜在的な顧客層と収益源は今日の初期段階を超えて拡大することになる。

 コンサルティング会社アルバレツ・アンド・マーサル(A&M)で宇宙航空防衛産業を担当するマネジングディレクターのルイジ・ペルーソ氏は「大事な点は、他の選択肢に対し、スターリンクのサービスと経済性に人々が満足していることだ。スペースXは解決策の実行可能性を実証してきた」と説明する。

 1000万人超に提供へ

 米連邦通信委員会(FCC)は昨年12月、地方にいる1000万人超の米国民にブロードバンドを提供する広範な取り組みの一環として、スペースXに8億8550万ドルの補助金を交付した。スペースXはアラバマやアイダホ、モンタナ、ワシントンなど35州に注力することになる。

 ワシントン州ブロードバンドオフィスのディレクター、ラス・エリオット氏は「老朽化したインフラに資金を投じ続けることはできない。スターリンクを使えばどこでも大丈夫だ。選択肢としてその技術を使用することで、今では深い農村部や設備設置に費用のかかる地域でのインフラ建設コストはそれほど問題ではない」と語る。

 新型コロナのパンデミック(世界的大流行)の初期にエリオット氏はワシントン州最西端で暮らす先住民ホー族の人々とスペースXをつないだ。約1000エーカーの土地に23家族が暮らすホー族のコミュニティーは長年、遠隔地にある居留地への高速インターネット導入に苦戦していた。子供たちは遠隔授業へのアクセスに手間取り、インターネット接続に時間がかかりすぎて宿題をダウンロードするのに終日を要することもあった。

 ホー族の一員、メルビンジョン・アシュエさんはワシントン州商務省が製作した短い動画で、「スペースXがやってきて私たちは突如、21世紀に突入した」と述べている。

 アシュエさんは電話取材に対し、スターリンクに接続して最初にやったのは、長編映画『ジュラシック・パーク』のダウンロードだったと明かす。今では居留地の世帯の大半がスターリンクを利用しており、オンライン授業にとどまらず、遠隔医療の予約やオンライン会議にもアクセスできるようになった。

 ホー族の副族長、マリア・ロペスさんは「インターネットへのアクセスは実用的なもので、もはやぜいたく品ではない」と話す。スターリンクには簡単に接続でき、「時折誤作動はあってもすぐに再起動する」というロペスさんにとって最も怖かったのは、屋根の上に衛星アンテナを設置するためにはしごを上るときだった。(ブルームバーグ Dana Hull)

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