海外情勢

タイ家計債務がコロナで急増、GDP比87%に 財政圧迫懸念

 新型コロナウイルスの感染拡大を背景に、タイの家計債務が急増している。個人消費の冷え込みで歳入が減少し、財政の安定的運営が脅かされかねないと懸念されている。

 収入の3分の2失う

 バンコクのタイ保健省に勤めるヌアンチャン・ルンクンさんは100万バーツ(約351万円)を超える借金を抱える。新型コロナ感染拡大以前に借りたものがほとんどだが、昨年の感染拡大の第1波で両親と兄弟が職を失い、家族は収入の約3分の2を失った。2万4000バーツの月収の半分以上を借金返済に回すルンクンさんは「借金返済と家族で食べていくために限度額いっぱいの借金をした。すぐに高利貸しでお金を借りなければならなくなる」と訴える。

 タイは税制上の優遇措置や低金利、低インフレ、ローン金利の引き下げ競争など、消費者が融資を受けやすい環境があり、家庭の債務は数年来の構造問題。家計債務の対国内総生産(GDP)比は、2012年以来、70%を下ったことがなく、アジア新興国の中でも家計債務が非常に大きかった。

 タイ中央銀行によると、昨年9月末のタイの家計債務は13兆8000億バーツで、GDPに占める割合は、前年同時点の79%から87%に上昇。金融政策決定委員会の議事録によると、出席者から家計債務を注視する必要があるとの意見が出た。

 野村ホールディングスのエコノミスト、シャロン・ブーンナック氏(シンガポール在勤)は「タイの家計債務問題は新型コロナ感染拡大前から懸念していたが、個人消費を抑制し長期的な経済成長の可能性を阻む水準に達している。感染拡大や労働市場の悪化、景気後退の懸念を背景に今年、GDPに占める家計債務の割合は加速度的に膨らみ、既に弱まっている景気回復のさらなる重しとなる」と指摘する。タイ財務省は新型コロナの感染者数が昨年12月半ば以降、3倍以上に増加していることを受け、10月に4.5%としていた今年のGDP成長率の予測を1月最終週に2.8%に引き下げている。

 英金融大手HSBCのエコノミスト、ノイラン・アルビス氏は「タイの政策金利は0.5%と既に過去最低の水準にあるものの、中銀がさらなる利下げに踏み切らない理由の一つは、緩和が家計債務の増加につながりかねないことだ。現在、中銀の最大の関心事は為替と感染再拡大、経済回復だが、今年後半から来年にかけて感染拡大が落ち着けば家計債務問題は重要課題として再浮上する」とみる。

 「問題解消が刺激策」

 タイ政府と中銀は直近の感染拡大で影響を受けた人への債務救済措置や景気刺激策を相次いで打ち出している。中銀が17年に開始した多重債務者向けの返済計画の支援制度は、感染拡大の影響で、昨年は前年の3倍を超える1万1118件の利用があった。利用者は一部の金融機関が課す20%を超える年利よりも大幅に低い4~7%で融資を受け、10年間の支払い猶予もある。

 同制度を統括するカジョーン・サナパス氏は「年内に少なくとも10万件の利用を見込んでいる。政府の消費促進策も家計が多額の債務を抱えていれば最大限の効果は期待できない。支援制度で債務の問題を解決できれば無駄に政府予算を使わずとも消費は上向く。家計債務問題を解消することが一番の刺激策だ」と話した。(ブルームバーグ Suttinee Yuvejwattana)

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