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対中外交、経済安保法の制定必要 米制裁に政府は直言する覚悟を

 2020年初頭、新型コロナウイルス感染症の蔓延(まんえん)を受けて中国政府が武漢など一部地域を閉鎖しただけで、日本国内外の多くの工場で操業が一時停止した。この事実は、中国がハイリスク国であることを物語る。(古川勝久)

 先の日米首脳会談でも焦点になった台湾や尖閣諸島をめぐり、軍事的緊張が高まれば、日本企業のサプライチェーン(供給網)に致命的な打撃が想定される。防衛面でも、果たして日本の産業は中国抜きでどこまで兵器製造の機械や部品を調達できるのか。日本企業は政経分離の期待を捨てて経営戦略を組み直し、サプライチェーンの多角化を加速させるべきだ。

 日米共同声明では、香港および新疆ウイグル自治区での人権侵害に深刻な懸念を表明したが、この程度で中国の政策変更は期待できない。日本はいまだに人権問題を根拠とする制裁法制を持たない、数少ない先進国だ。

 制裁とは経済安全保障の主要政策ツールの一つだが、これだけで相手の政策を変えさせるわけではない。かといって、これ抜きで政策を変えさせられるわけでもない。硬軟合わせたさまざまな措置を長期にわたり柔軟に運用する必要がある。

 日本の「制裁法制」は多くの場合、外為法を指すが、これはもともと貿易促進のための法律で、罰則が軽微で、処罰対象の範囲も狭い。国際非合法活動の取り締まりには不向きである。人権問題も根拠に含む「経済安全保障基本法」の制定が必要だ。企業レベルでも、国際的な投資規範の広がりを受け止め、人権侵害企業のサプライチェーンへの関与を自ら積極的に監視強化する必要がある。

 日米首脳会談では生命科学、人工知能(AI)、量子科学、宇宙分野などでの科学技術協力で合意した。経済・安保の両面で大きな影響があり、中国と競合する。協力推進には、政治主導が不可欠。厚生労働省や文部科学省、内閣府など、外交・安全保障とは縁遠い省庁の積極的な関与が必要だ。一般的に科学技術関係者は「非軍事」を志向する向きが強く、対米協力に消極的だ。日本政府は20年から、人工知能や暗号化に必須の高等数学分野の国際協力を友好諸国と進めようとしてきたが、協力的な研究者は数少なく、遅々とした動きのようだ。科学技術関係者を日米協力の枠組みに導くには、根気強い取り組みが必須である。

 他方、米政府が対中制裁を強化しても、いまだに中国国内で羽振りがいい米国の金融機関が存在する。ある米銀行は中国共産党と密接な関係にあり、各種の優遇措置を享受している。日本企業からは「なぜ日本だけが米中いずれかの選択を迫られるのか」と憤りの声が聞かれる。

 米政府機関「対米外国投資委員会」は、国家安全保障の観点から外国企業による対米投資を厳しく審査する。日本企業が対米投資を行う際、中国と資本関係があれば、米国内での事業は難しい。

 一方、米国内の企業や銀行では自国内の緩い規制をかいくぐり、タックスヘイブン(租税回避地)などを経由し、中国でビジネスを継続する事例が見受けられる。米政府が日本に覚悟を迫るならば、日本政府も真剣な覚悟を直言すべきだ。

【プロフィル】古川勝久 ふるかわ・かつひさ 国連安保理専門家パネル元委員。1966年シンガポール生まれ。慶応大卒。米ハーバード大ケネディ行政大学院で修士、政策研究大学院大で博士。2011年から16年まで国連安全保障理事会の北朝鮮制裁委員会専門家パネルの委員。現在は経済安全保障問題アナリスト。

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