道標

米大統領施政方針演説 21世紀のニューディール「大きな政府」へ

 米国は歴史的転換期にある。過去1世紀、政府の役割に関する考え方の大転換(パラダイムシフト)が2度起きた。最初は1930年代。次は80年代だ。今、3度目の兆しがうかがえる。

 30年代は、株暴落に端を発した大恐慌に直面した。民主党のルーズベルト大統領は大型公共投資を柱とするニューディール政策を打ち出し、政府が大きな役割を果たして国民を救済した。

 それから半世紀は「大きな政府」が主流となった。政府が経済活動に積極的に介入することで、国民のために機能する市場を保ち、活力ある中間層をつくり出した。

 しかし、80年代に入ると、新自由主義が台頭した。共和党のレーガン大統領は減税と規制緩和を柱とするレーガノミクスを推し進め「小さな政府」へかじを切った。

 民主党も影響を受けた。中道志向の「ニューデモクラット」が幅を利かせ、ニューディールを担った左派は勢いを失った。格差にあえぐ弱者は行き場をなくした。

 オバマ政権期(2009~17年)から、そうした現状に対する草の根の「告発」が始まった。格差への抗議運動「ウォール街を占拠せよ」が本格化したのは11年だ。

 「ブラック・ライブズ・マター(BLM=黒人の命は大事だ)」運動も昨年、にわかに起きたわけではない。黒人高校生トレイボン・マーティンさん=当時(17)=が12年に射殺され、その翌年に生まれた。

 こうした動きが大きなうねりとなり、米政治を突き動かしている。新自由主義の下で顧みられなかった異議申し立ての声である。人々は市場万能という「神話」の崩壊に気付き始めている。

 来るべきパラダイムは「21世紀型のニューディール」である。「大きな政府」への回帰だ。担い手は経済的に苦しく、環境など「正義」に敏感な若者たちである。

 むろん、100年近く前の政策をそのまま現代に当てはめるわけにはいかない。20世紀の繁栄はニューディールだけでなく、戦争に支えられた側面がある。

 「世界の警察官」をやめた今、軍需に代わって米経済のエンジンとなり得るのは何か。鍵を握るのが、脱炭素社会に向けた「グリーン・ニューディール」だろう。

 バイデン大統領も気付いているようだ。1月の就任直後、気候変動対策を柱に据える大統領令を出した。巨額の財政出動で地球温暖化対策を進め、雇用創出も目指す。

 初の施政方針演説では、大型公共投資を通じて就労機会を創出する「雇用計画」や、教育・子育て支援を柱とする「家族計画」の重要性を訴えた。企業や富裕層増税などで財源を確保し、計440兆円規模を投じる。

 中道穏健派のバイデン氏が左派の要求にどこまで応じられるか、当初は懐疑論も強かった。実際は老練な政治手腕を生かし、苦しむ労働者や将来を担う若者に注力する未来志向の重要政策を次々と打ち出している。

 背景に新型コロナウイルスがあることは間違いない。米国の死者は57万人を超えた。20世紀の主な戦争の戦闘死者より多い。最も苦しんでいるのが勤労・若年層だ。

 コロナ対策は成功しているように見える。それを追い風に3度目の大転換に道筋を付け、より公正な社会の実現へ米国を導き、復元力を示すよう期待したい。(談)

【プロフィル】梅崎透

 うめざき・とおる フェリス女学院大教授。1971年、佐賀県生まれ。米コロンビア大で博士号。専門は米国史。2014年現職。昨年から副学長兼務。共編著「よくわかるアメリカ史」を6月出版予定。訳書に「歴史で考える」(キャロル・グラック著)。

Recommend

Ranking

アクセスランキング

Biz Plus