海外情勢

「最大の要因は中国ではない」世界の軍事費が過去最高になった“本当の原因” (1/2ページ)

 今年2月、イギリスのシンクタンクが「2020年の世界の軍事費が過去最高水準に達した」と発表した。コロナ禍で景気後退しているのに、なぜ軍事費が増えているのか。ライターの石動竜仁さんは「最大の原因は、米国が国家間紛争に備えた軍備に転換していることにある」という--。

 なぜコロナ禍でも軍事費が増大しているのか

 昨年から世界に深刻な影響をもたらしている新型コロナウイルスのパンデミックであるが、そんななかでAFPが次のような記事を配信した。

 【2月26日 AFP】英シンクタンク「国際戦略研究所(IISS)」は25日、2020年の世界の軍事費が、新型コロナウイルスの流行とそれに続く景気後退の影響にもかかわらず、過去最高水準に達したと発表した。中国の海軍増強などが増大をけん引したとされる。

 「世界の軍事費、コロナ禍でも過去最高水準に」

 新型コロナウイルスの世界的流行下にもかかわらず、世界の軍事費は増大したという趣旨の記事だ。なぜ、軍事費は増大したのだろうか。

 結論から述べてしまうと、景気後退下にあっても軍事費が増大するのは、以前から珍しいことではない。軍事費は中長期的な計画に基づいているし(これは大抵の国家支出もそうだが)、各国における軍事的な脅威の状況によってはおいそれと削れない。そして、現在はおいそれと削れない状況にある国が多いのだ。

 事実、新型コロナの流行下にあっても、世界では紛争が絶えない。

 銃器は使われていないものの、2020年6月には中国とインドの間でも係争地を巡って両国の兵士が衝突し、両軍に多数の死傷者が出ている。

 2020年9月にはアゼルバイジャンとアルメニアの間で、両国の係争地であるナゴルノ・カラバフを巡って大規模な武力衝突が発生している。パンデミックの最中でも国家の意思を覆すのは容易ではないことを示す一例かもしれない。

 軍事費の額面だけで単純比較するのは難しい

 このように、軍事費の長期的なトレンドの中で2020年に特徴があるとすれば、それは新型コロナ流行とは別のところにあるだろう。

 そこで本稿では、ネット上で誰でも閲覧可能なデータから、世界の軍事費のトレンドを把握し、過去の傾向を踏まえた上で2020年の軍事費増大について、特筆すべき点があるかを探っていきたい。

 本論に入る前に、軍事費についての考え方の違いについて触れたい。というのも、国によって軍事費の考え方が異なり、公表されている軍事費の額面だけでの比較は難しいからだ。

 例えば、公表されている中国の国防費の中には、海外からの武器購入や研究開発費は含まれておらず、実態はもっと大きいと考えられている。

 また、日本では海上での警察・救難活動を海上保安庁が担っているが、こういった活動を海軍が行う国は珍しくなく、日本も戦前は海軍の所管であった。日本の防衛費に海上保安庁の予算は含まれていないが、各国の軍事費を比較する場合、これを含めるか否かは問題になるだろう。

 リーマンショック後も軍事費は増大していた

 各国の制度に合わせ、こういった検討を行うのは個人では難しい。そこで、国際的に評価が高い軍事問題シンクタンクである、ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)が公表しているSIPRI Military Expenditure Databaseを使い、各国の軍事費について比較してみよう。

 まず、新型コロナ流行に伴う景気後退にもかかわらず軍事費が増大した件だが、これは意外なことだろうか? 新型コロナ流行以前に世界経済に大きな影響を与えた出来事といえば、2008年9月のリーマンショックがある。

 景気後退が軍事費に影響を与えているのであれば、リーマンショック後に軍事費は減少しているはずだが、実際にはそうはなっていない。

 この時期の世界の軍事費総計を見てみると、2008年は1兆6390億ドル(2019年の米ドルレート・貨幣価値に換算)、翌2009年は1兆7540億ドル、2010年には1兆7900億ドルと、リーマンショック後も増大を続けているのが分かる。

 タイに端を発し、アジア各国、そして世界に波及した1997年のアジア通貨危機ではどうだろうか。世界の軍事費は1997年に9870億ドルだが、翌1998年には9700億ドルと、減少を見せている。

 しかし、この頃は冷戦終結に伴う軍縮ムードがまだ続いており、元々減少傾向の最中にあった。1998年は前年比で2%を切る下げ幅だが、1995年は5%近い下げ幅だったことから見ても、通貨危機だけが要因ではないだろう。

 なお、SIPRIのデータがある1988年以降、世界の軍事費が1兆ドルを下回っていたのは1996年から1999年の4年間だけで、1998年の9700億ドルを底にして、以降は上昇に転じており、この傾向は今もなお続いている。

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