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ワクチン輸出国だった日本が、「輸入ワクチン頼み」に落ちぶれた根本原因 (1/2ページ)

 ■ようやく「国産ワクチン」の開発に踏み切るが…

 一向に収束する気配が見えない新型コロナウイルス。ようやく日本が「国産ワクチン」の開発に踏み切る。6月2日の「COVAX(コバックス)ワクチンサミット」で菅義偉首相は、国産ワクチンの研究開発拠点の整備構想を表明、官民あげてのワクチン開発が動き出す。

 コバックス・サミットは日本政府と国際機関の共催だ。ワクチンの接種が遅れる日本は米国から「渡航中止勧告」を出されるなど、世界から孤立しつつある。このため、米国や欧州の主要国など30の国・地域の参加を要請。各国を巻き込んで「ワクチン後進国」の汚名返上をアピールしたい考えだ。

 日本は米国のファイザーやモデルナなど3社のワクチンが薬事承認され、供給体制が整いつつある。東京や大阪など大都市を中心に65歳以上の接種が始まった。しかし、海外産のワクチンに頼る状況には変わりない。変異株がまたぞろ出てくれば、それに対応したワクチンの開発が必要になり、日本への供給は後回しになる。「コロナ優等生」と言われた台湾でも変異株が蔓延。ワクチンの接種が遅れる蔡英文総統は一転して苦しい立場に置かれている。

 ■日本は1980年代までは「ワクチン先進国」だった

 日本と同様、台湾や韓国は国産ワクチンの開発に後れを取った。ワクチン接種の遅れが「経済回復の遅れ」を招く中で、日韓台の焦りの色は日に日に濃くなるばかりだ。

 起死回生を目指す日本はコバックスサミットで、資金や体制面での支援のほか、実用化までの国の制度の再構築を掲げる。世界トップレベルの研究開発拠点を設けて、治験や新薬の承認などの面で規制を緩和し、大学や製薬会社が共同研究に取り組む体制を構築する。製薬会社の資金面での懸念を払しょくするために開発したワクチンを政府が買い上げる仕組みや基金設立に向けても検討する。

 今や、他国のワクチンに頼る日本だが、1980年代までは「ワクチン先進国」だった。水痘、日本脳炎、百日ぜきなどのワクチンを世界に先駆けて開発、米国などに技術供与していたほどだ。

 では、なぜ、ワクチンの開発が途絶するまで衰退したのか。その大きな要因の一つが訴訟だ。

 ■副作用を恐れる保護者の判断などで接種率は一気に低下

 70年ごろから、天然痘ワクチンやはしかや風疹、おたふくかぜなど予防接種や子宮頸がんワクチンでの健康被害が社会問題化し、国は相次いで起訴された。その様子をみた企業も需要が安定した予防接種用の既存ワクチンの製造だけを担う「護送船団方式」で細々と続け、新規開発に及び腰になった。

 決定的だったのが92年の東京高裁での国の全面敗訴だ。世論に押される形で国は上告を断念した。94年には予防接種法が改正されて接種は「努力義務」となり、副作用を恐れる保護者の判断などで接種率は一気に下がり、それと同時に日本の製薬会社はワクチン開発から身を引き始めた。

 そして薬害エイズ事件がとどめを刺した。この事件で当時の厚生省の担当課長が業務上過失致死罪で有罪判決を受けた。ワクチン接種を許可する行政も一気に腰が引けた。

 ※編集部註:血液製剤についての説明が間違っていました。当該部分を削除します。(6月3日9時55分追記)

 ■米国はワクチン開発と供給に約2兆円を投資

 一方、海外は事情が異なる。2000年ごろから重症急性呼吸器症候群(SARS)やエボラ出血熱、中東呼吸器症候群(MERS)など、致死率の高いウイルス感染症が次々と流行。それへの対応策として、ワクチン開発が急速に進んだ。新型コロナワクチンとして注目を集めるmRNAワクチンはもともとがんの治療手段として研究されていたが、新型コロナに応用された。

 米国は01年の炭疽(たんそ)菌事件を契機に、感染症に対する制度や体制を抜本的に見直した。有事には保健福祉省(HHS)が司令塔になって、製薬会社や研究機関などと連携。ワクチン開発資金の支援や臨床試験(治験)、緊急使用許可といった取り組みが一気通貫で進む。

 中国の隣国である台湾で、新型コロナウイルスの感染初期に感染者の爆発を防げたのはSARSでの手痛い経験があったからだ。

 米国はトランプ政権時にワクチン開発と供給の計画を立ち上げ、およそ2兆円を投資した。バイデン政権は国防生産法に基づいてワクチン製造支援に企業を注力させる方針を打ち出した。中国も政府主導でワクチンを開発し、海外で供給する「ワクチン外交」に乗り出している。

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