海外情勢

“代償”支払う台湾 感染数急増、環境要因…半導体供給に不安

 台湾が世界中から半導体不足への対応で協力を求められていた今年2月、陳時中・衛生福利部長(衛生相)は新型コロナウイルスワクチンをめぐり中国と対立していた。

 陳氏は米ファイザーとドイツのビオンテックが共同開発した新型コロナワクチン500万回分を直接確保する計画が、中国政府の政治的圧力で頓挫したと示唆。同ワクチンの中国本土と香港、マカオ、台湾への流通は中国の上海復星医薬(集団)が権利を得ていたが、台湾はビオンテックから直接購入する計画だった。中国外務省の華春瑩報道官は当時、「台湾はワクチン問題を政治問題化するのをやめるべきだ」と反論した。

 米に依存低減の動き

 3カ月後の現在、台湾は代償を支払っている。ワクチン不足で感染者数が急増し全面的なロックダウン(都市封鎖)の恐れが浮上した。感染第1波はうまく回避したものの、これまでにワクチン接種を受けたのは人口の約1%にすぎない。台湾の公衆衛生上の緊急事態は、域内経済の重要な柱であり世界的な供給逼迫(ひっぱく)解消にも欠かせない半導体産業の混乱を招く可能性がある。

 台北駐ニューヨーク経済文化弁事処(総領事館に相当)の李光章処長は「ワクチンの追加調達で支援が得られなければ、“物流の問題”が生じかねない」と警告した。

 しかし台湾は中国からのワクチン供給を退け、他国・地域から十分な量を確保できなければ半導体不足が加速すると警告することで、長期的に台湾の半導体競争力の低下につながるような自国投資拡大を世界の主要国に一段と促しているともいえる。

 昨年から自動車やコンピューターゲームなどさまざまな業界を苦しめてきた半導体不足は、台湾に世界的に大きな影響力を与えたように見えた。台湾積体電路製造(TSMC)は最先端半導体の供給で世界をリードしており、米アップルやクアルコムなどが設計した半導体を製造するファウンドリー(受託生産)事業で56%のシェアを握る。

 しかし、台湾の状況は突然暗転。干魃(かんばつ)に端を発した停電にコロナ禍が重なり、経済の不確実性が高まり、株価は急落した。

 さらに、日米欧の政府は半導体供給網の戦略的側面への警戒から自国での生産拡大を図っており、台湾の地政学的影響力の源泉である最先端半導体市場における優位が脅かされている。

 半導体世界最大手、米インテルのゲルシンガー最高経営責任者(CEO)はインタビューで、「われわれは台湾と韓国に依存し過ぎており、要するにもっとバランスの取れた世界的供給網が必要だと考えている」と説明。主に西側で消費される半導体の生産をアジアが主導する不均衡に対処するため、「米欧はより積極的に行動すべきだ」と語った。

 レモンド米商務長官も、バイデン政権は半導体不足への対応で台湾政府やTSMCと協力していると述べる一方で、米国は台湾への依存を減らそうとしていると発言した。

 電力や水にも懸念

 米国内での半導体生産向けに約500億ドル(約5兆4900億円)規模の政府支援が見込まれ、欧州や韓国でもさらなる計画が示される中、台湾が焦りを感じ始めている兆しはある。

 台湾政府は軍事利用が可能な技術を対象とした新たな輸出規制リストの草案策定のほか、対中輸出の規制強化、違反への罰則厳格化に取り組んでいる。関係者が明らかにした。

 与党・民主進歩党(民進党)の一部メンバーは、知的財産権の侵害に関する罰則強化の法改正も検討している。経済スパイで有罪となった場合に終身刑を科すよう提案している趙天麟議員は「台湾は同盟国の信頼を勝ち取り、中国が盗んだ技術を基に供給網を構築するのを阻止する必要がある」とコメントしたと同議員の側近が明らかにした。

 また、5月の停電で電力を大量に消費する半導体工場への将来的な電力供給の不確実性や水不足といった環境要因への関心が高まったことも、台湾の半導体産業の持続可能性が疑問視される一因だ。

 台湾経済研究院の研究者、劉佩真氏は台湾がコロナ禍や電力および水不足を克服し、域内企業が「主に台湾で問題なく生産することで世界の需要を満たせる」状況を示すことはできるだろうと予想した。

 そのために、目下必要になるのはワクチンだ。台湾の元公衆衛生政策顧問で現在はオレゴン州立大学の国際医療センター所長を務める紀駿輝氏は、ワクチン確保で「台湾の多くの政治家が政府に半導体をてことして利用するよう促している」と指摘。政府はあからさまな利用に消極的だが、「米国がTSMCからの半導体供給を不安視している場合、コロナ禍で生産が妨げられないようにするため台湾にワクチンを提供する動機は生じるだろう」と分析した。(ブルームバーグ Alan Crawford、Debby Wu)

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