海外情勢

“悪しき伝統の復活”も辞さないロシア 「脱炭素」に逆行、石炭輸出を拡大

 世界的に脱炭素の潮流が加速する中、資源大国のロシアはアジア向けの石炭輸出拡大を急いでいる。需要増加が見込まれる中国などアジアの大市場を狙い、約1兆円を投じ石炭輸送の鉄道インフラを近代化する。建設を加速させるため囚人を動員するなど旧ソ連時代の悪しき伝統の復活も辞さない考えだ。

 対中輸出独占も念頭

 鉄道の近代化作業はロシアを化石燃料輸出の最後のとりでとすることを目指す幅広い取り組みの一環だ。極東の港に向かうシベリア鉄道とバイカル・アムール鉄道を拡張する直近のプロジェクトでは7200億ルーブル(約1兆800億円)もの巨費が投じられ、2024年に向けて石炭などの輸送能力を年間1億8200万トンに引き上げる計画だ。

 13年に開始した近代化作業により輸送能力は既に1億4400万トンと2倍以上に拡大している。プーチン大統領は3月の石炭会社との会合で、次の段階に向けた作業の加速を促した。

 プーチン氏は自国が中国と地続きであり、習近平国家主席とも良好な関係を維持していることから、世界の石炭消費量の半分以上を占める中国への輸出を独占することも可能とみている。石炭輸出量第1位のオーストラリアが新型コロナウイルスの発生源調査をめぐる対立で中国から貿易制限を受けていることもプーチン氏を強気にさせている。

 ロシア政府が昨年承認した石炭産業発展計画によると、最も慎重なシナリオでも、同国の石炭生産量は35年までにコロナ禍前の水準から10%以上の増加となる。同シナリオでは中国だけでなく、インドや日本、韓国、ベトナム、インドネシアでの需要増加を織り込んでいる。

 ただ、こうした計画はロシア経済と地球環境の双方にとってリスクをはらんでいる。国際連合の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は壊滅的な地球温暖化を避けるために石炭利用の段階的な廃止を提唱しているほか、気候変動に伴う災害による同国の経済損失は今後数十年で数十億ドル規模に達する見通しだ。

 国際エネルギー機関(IEA)は5月、気温上昇を1.5度以下に抑えるために新規の化石燃料インフラを建設すべきではないと発表。IEAは50年までに温室効果ガス排出量を実質ゼロにするためのロードマップ(工程表)を公表し、40年までに二酸化炭素(CO2)回収(カーボンキャプチャー)技術を導入しない石炭火力発電所を全て廃止するよう提言した。

 「炭鉱の発展」保証

 プーチン氏は金銭面以外にも大きなリスクを抱えている。3月に開催したビデオ会議で政府関係者に対し、人口約1100万人を擁する一部地域では石炭産業が地域経済を牽引(けんいん)していることを再確認した。1991年のソ連崩壊以前は炭鉱労働者の不満が政府への圧力となったが、現在では同国の石炭産業は衰退の一途をたどっている。

 プーチン氏は「世界の需要が減少しても、わが国の炭鉱地域の発展を保証するためにあらゆるシナリオを慎重に評価する必要がある」と指摘した。

 同国では製鉄用の原料炭の生産拡大も計画されている。ロシアの実業家、アルバート・アヴドリアン氏が所有するエープロパティは昨年、極東サハ共和国のエルガ炭鉱を買収し、1300億ルーブルを投じて2023年までに石炭生産量を現在の500万トンから4500万トンに引き上げる計画だ。

 ロシアの統合採鉱・鉄鋼会社メケルのオレグ・コルゾフ最高経営責任者(CEO)は「アジア太平洋地域の多くの国々の経済がコロナ禍から回復している。同地域の原料炭の需要は今後5年間にわたり高水準を維持するだろう」とみている。(ブルームバーグ Yuliya Fedorinova、Aine Quinn)

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