海外情勢

中国にも「MMT」の波 米国手本に景気刺激、債務抑制転換求める声

 中国の経済専門家らの間に、米国を手本に借り入れを増やし景気を刺激するよう求める声が高まっている。世界金融危機後の緩慢な景気回復の過ちを繰り返すまいと対策を強化するバイデン米大統領とは対照的に、中国政府は政府債務や金融リスクの抑制に軸足を置いているが、こうした慎重姿勢の転換が必要だとしている。

 借り入れ継続は可能

 中国は2021年の経済成長率目標を「6%超」と控えめに設定したほか、財政赤字の対国内総生産(GDP)比見通しも前年に比べて低水準に抑えた。地方政府に対しても支出抑制を求めた。

 中国政府の慎重姿勢の背景には、10年余り前の金融危機後の経験がある。当時は大規模な刺激策を講じた結果、中国経済の成長を後押しするとともに債務水準も上昇した。資産バブルと無駄な投資を受け、持続不可能な与信の伸びを理由に市場が崩壊するとする「ミンスキー・モーメント」をめぐる懸念も広がった。

 これに対し、政府とつながりのある複数のエコノミストや元アドバイザーは、新型コロナウイルス危機以降、世界では記録的な規模の財政刺激策が講じられ、中央銀行も低金利維持でこれに応えるなど、政策をめぐる思考の転換が起きていることを挙げ、政府の経済政策の焦点がずれていると指摘する。

 強い通貨を持つ国の政府はいくら借り入れをしても財政破綻を起こさないという「現代貨幣理論(MMT)」を明確に支持するエコノミストこそいなかったものの、注目を集める同理論と歩調は合っている。

 有力な政府系シンクタンク、国家金融・発展実験室でシニア研究員を務める劉磊氏はインタビューで「マクロ経済学には債務に対して新たな考え方がある。民間部門とは違い、政府は古い債務を返済する目的で新規の資金借り入れを続けることができる。金利が低いままであることが唯一の要件だ」と話す。

 劉氏は、イエレン米財務長官が全体の債務水準よりも債務の利払い費に重点を置くとした最近の発言は「かなり筋が通っている」と語る。

 イエレン長官は6月14日、支出の余地がどの程度残されているかを把握する最善の指針は政府の利払い費の規模だと指摘し、米国の債務残高は07年の2倍余りに増えたものの、経済全体と比較した利払い費は当時ほど多くないと説明した。

 米連邦債務残高は対GDP比で既に第二次世界大戦後の記録を更新したが、利払い費の対GDP比は昨年、1.6%に縮小し、21年に一段と減る方向にある。こうした情勢は、財務省が借り入れコストの高かった時期の国債借り換えを進める根拠になっている。

 昨年、政府の施策に関して李克強首相と意見を交わした平安証券の鍾正生チーフエコノミストも劉氏と同様の見方を示している。今年4月の講演で、中国は財政・金融政策の緊密な協調が金融安定よりも重要になり得ることを米国から学ぶべきだと主張した。

 地方の支出分を調達

 中国の相対的に控えめな刺激策は経済回復を背景としているが、回復ペースは緩やかになっており、一部アナリストの今年の成長予想引き下げにつながっている。一方、米国のGDP予想は引き上げられている。

 財政的に異なる経緯をたどることで長期的な影響も及ぶ。経済協力開発機構(OECD)とIMFの予測によれば、米国は経済大国の中で唯一、25年までにGDPの水準が新型コロナ感染急拡大以前の予測水準を上回ると見込まれ、中国経済の規模が米国を追い抜くと見込まれる日は遅れる可能性がある。

 中国の国家発展改革委員会(NDRC)マクロ経済研究院対外経済研究所の研究員だった張岸元氏は、従来の過剰債務削減の取り組みがうまくいったと宣言することで、政策立案者は政府債務に対する姿勢を和らげることができると訴える。現在、中信建投証券のチーフエコノミストである張氏は、政府債務の絶対比を下げる目標ではなく、利払い負担を小さくすれば債務を拡大できることに注目すべきだと話す。

 中国人民銀行(中央銀行)で貨幣政策委員を務めた余永定氏は、債務動向に軸足を置くことで地方政府によるインフラ投資拡大能力が制限され、それにより経済成長が損なわれていると指摘。「今年の財政政策は昨年に比べてかなりタイトとなっており、これは誤りだ。われわれは刺激策からの出口戦略を急ぐべきではない」と語る。

 その上で、「中央政府は地方の支出分を調達するためにもっと債務を増やし、必要な場合は金利引き下げのために地方債を購入すべきだ。物価上昇がこの政策の主な制約であり、中国の金利水準が低水準にとどまっているのは、経済成長が潜在力を下回っていることを示している」と、MMTが提唱するアプローチを反映した見解を示した。

 中国の5月のインフレ率は1.3%で、過去5年平均は2.1%と政府が上限目標に定める3%を下回っている。

 余氏は「成長率を高めるために緩和的な財政、金融政策を活用してみてはどうか。消費者物価指数(CPI)が上昇して財政の脆弱(ぜいじゃく)性が高まれば、やめたらよい」と提案する。(Bloomberg News)

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