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【底流】ノンアルビール超強気の大攻勢 「ドライ」場外戦も勃発
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ノンアルコールのビール風味飲料商戦が過熱している。少子高齢化で国内のビール類市場が縮小するなか、ドライブ時や妊娠時、休肝日などの代替需要だけでなく、アルコールを飲まなかった消費者に広がるなど、唯一の高成長市場となっているためだ。各社は超強気の販売計画を打ち出し、新商品の投入や大増産で攻勢をかけている。アサヒビールが発売する新商品のデザインに、他社が「ビールと誤飲する恐れがある」とクレームを付けるなど“場外戦”も勃発した。
「認知度を高めるため、先行投資的にマーケティング費用を手厚くしているが、それでも利益に貢献してくれた」
8日に発表した平成23年12月期連結決算で過去最高益を更新したサントリーホールディングス。千地耕造常務執行役員は、ビール風味飲料の“孝行息子”ぶりに顔をほころばせた。
サントリー酒類の「オールフリー」は、昨年の販売量でキリンビールの「フリー」を抜き、トップブランドに躍り出た。今年は前年実績に比べ19%増の700万ケース(1ケースは大瓶20本換算)を狙う。昨年12月にリニューアルを行い、1~3月期に前年同期に比べ約4割多い約140万ケースの大幅増産に踏み切る。
「生まれたばかりの市場で、新しいニーズに応えられた」。ビール事業部の水谷俊彦ブランド戦略部長は、カロリーと糖質もゼロにした機能性を“勝因”に挙げる。
平成21年に初めてアルコール0・00%の「フリー」を発売し市場を切り開いたキリンも巻き返しに躍起だ。1月中旬製造分からのリニューアルでは、「酸化防止剤の使用をやめるなどで、飲みにくい雑味を減らした」(マーケティング部の梶原奈美子さん)。
昨年末に「ノンアルコール忘年会」を提案するなど、“飲用シーン”を広げる取り組みを続け、前年実績比24%増の510万ケースの販売計画を打ち出した。
サッポロビールは、東日本大震災直後の昨年3月に発売した「プレミアムアルコールフリー」を約2倍の200万ケースに増やす計画で、1~3月期に約7割の増産を行う。震災の影響で満足に展開できなかったキャンペーンなどのマーケティング活動も積極化する。
昨年は最下位に沈んだアサヒは、今月21日に起死回生を狙った新商品「ドライゼロ」を投入。一気に300万ケースの販売を目指す。
ところが、同社の主力ビールの「スーパードライ」を連想させる商品名とデザインに、キリンとサントリーがかみついた。
アサヒが先月10日にドライゼロの発売を発表すると、キリンの松沢幸一社長は「未成年飲酒や誤飲による飲酒運転につながりかねない」と批判。サントリー酒類の仙波匠常務も「(誤飲防止など)これまでの業界の努力を無にするもの」と、苦言を呈した。
これに対しアサヒは、デザインに赤字で大きく「ノンアルコール」と記しているほか、業界の自主基準の改正を受け、今月からスーパードライに「お酒」のマークを目立つように入れることにしており、「誤って手に取ることはない」と反論する。
ただ、「スーパードライとは切り離した商品」(小路明善社長)と強調するアサヒに対し、業界では「派生商品として売り込みたいのは明白」(関係者)との声が大勢だ。スーパードライは販売量が年間1億ケースに達するスーパーブランドだけに、「愛飲者の10人に1人が試すだけで、1千万ケースになる」(同)との警戒感は強い。
各社にとってビール風味飲料は、重要な“ドル箱市場”だ。本業であるビール類の昨年の出荷量は、前年比4%減と7年連続のマイナス。これに対し、ビール風味飲料は、24%増の約1200万ケースと急拡大が続いた。酒税が課せられないにもかかわらず、145円前後と発泡酒と同水準の値段で売られており、利益率の高い“おいしい商品”だ。
ただ、大手4社の主力ブランドの今年の販売計画を合計すると1710万ケースに達し、前年実績から43%も増えることになる。果たして市場の拡大は続くのか。
「『これでもいい』ではなく、『これがいい』という消費者を増やしたい」(サントリーの水谷部長)
「仕方なくではなく、生活の中で飲まれるステージに移行させたい」(キリンの梶原さん)
担当者はこう口をそろえる。成長が止まれば、ビール類と同じように不毛なシェア争奪戦や値下げ合戦に陥るのは必至。成長の持続性を試される重要な年になりそうだ。(高橋寛次)