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【底流】ユニクロ戦略に死角は? 後継者問題「やはり世襲か」との観測も

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【底流】ユニクロ戦略に死角は? 後継者問題「やはり世襲か」との観測も

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 カジュアル衣料ユニクロを展開するファーストリテイリングが、グローバル戦略を加速させている。東京・銀座に「広告塔」となる旗艦店を相次いでオープン。世界に情報を発信しブランドの認知度を高め、海外での集客につなげる作戦だ。平成27年8月期には海外売上高が国内を上回り、32年8月期には連結売上高を現在の1兆円弱から5兆円にまで拡大する目標を掲げる。デフレ不況が長期化するなか、業績も株価も上昇基調で、柳井正会長兼社長の鼻息は荒いが、自らの後継者問題を含め、課題も少なくない。

目標年商100億円

 ファストリが3月に立て続けに銀座にオープンした旗艦店。6丁目の「ユニクロ銀座店」は、12階建てで売り場面積5千平方メートルと、ユニクロでは世界最大級。5丁目の低価格ブランド「ジーユー銀座店」も1500平方メートルを持つ。

 両店とも中国人観光客らなど外国人らで大にぎわいが続く。近くの百貨店の紙袋を抱えた中高年女性も目立つ。

 「年商100億円を目指す。世界でナンバーワンの店になれる」。柳井会長が掲げるユニクロ銀座店の目標は超強気だ。

 4月12日に発表した24年2月中間決算では2桁の増収増益を達成。同年8月期の通期売上高予想を9415億円に上方修正した。

 「消費は回復というより昔の状態に戻った。われわれは十分に勝ち残れる」(柳井会長)と判断。3千~5千平方メートルの旗艦店を新宿や渋谷、名古屋、福岡などにもオープンするほか、海外でもアジア中心に年200~300店の出店攻勢に打って出る。

内需株の代表格

 株価も今年1月5日の安値の1万3600円から4月2日には1万9150円まで40%も上昇した。4日には3月の既存店売上高の伸びが市場の予想を下回ったことで大きく下げ、日経平均株価が1万円の大台を割り込む“ユニクロ・ショック”が起きた。

 今や「円高にあえぐ輸出株に代わり、内需株の代表格として市場全体に大きな影響を及ぼす存在」(アナリスト)となっている。

 ただ、市場では業績の先行きを不安視する声も出ている。国内での出店攻勢について、クレディ・スイス証券の山手剛人アナリストは「賃料など固定費の増大や、自社店舗同士の競合による収益低下を招きかねない」と指摘する。

 海外事業も盤石ではない。海外収益のうち8割は約120店を展開する中国と約70店の韓国で稼いでいるとみられるが、「中国は出店に見合う利益が出ておらず、韓国はすでに頭打ち状態」(外資系証券アナリスト)との分析もある。

 欧米ではブランドの認知度がまだまだ低く、ニューヨークの旗艦店「34丁目店」は赤字だ。

後継者問題も未解決

 「銀座から世界」を目指す作戦にも、ライバルがひしめいている。

 米カジュアル衣料大手トミーヒルフィガーは東京・表参道にアジア初となる旗艦店を今月18日にオープンした。来日したフレッド・ゲーリングCEO(最高経営責任者)は「日本市場に成長性があるとは思わないが、中国人観光客が多く来るので、中国に向けたブランドの発信地と位置づけている」と狙いを説明する。

 同社は20年前に日本に進出し、この10年で売上高を3倍に増やし、頭打ちになったと見るや、中国に本格攻勢をかける。「ユニクロはライバルではなない」と、ゲーリングCEOは言い切った。

 スウェーデンのファッションブランド「H&M(ヘネス・アンド・マウリッツ)などの海外ブランドは、銀座など日本を足場に中国に打って出る戦略を着々と進めている。もともとブランド力に劣るユニクロが「アジアを代表するブランド」(柳井会長)になるのは簡単ではない。

 長年の課題とされてきた柳井会長の後継者問題も未解決だ。現在63歳の柳井氏は「65歳で引退。世襲はしない」と公言してきた。言葉通りなら、32年の5兆円達成は後継者に委ねることになる。

 伊藤忠商事から転身しファストリの副社長となった沢田貴司氏や、一度は社長に就いた玉塚元一氏ら後継者候補はことごとく柳井氏の元を離れていった。

 昨年11月には長男で37歳の一海氏が子会社のリンク・セオリー・ホールディングスの会長に就任。「やはり世襲か」との観測も出ている。

 グローバルブランドのトップには、国際感覚や若い感性が求められる。ファッション市場調査機関の代表を務める小島健輔氏は「国際感覚と美的センスを持ち合わせた人材に早く経営権を譲る必要がある」と話している。(藤沢志穂子)

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