全日空「ボーイング787」で国際線飛躍 気がかりはライバル日航の復活
2012.7.7 05:00更新
4月に仙台と東京で開かれた旅行業界の世界的大会「第12回世界旅行ツーリズム協議会グローバルサミット」。航空業界がテーマに取り上げられた講演会で、パネル討論者として登壇した全日本空輸の伊東信一郎社長は「太平洋を越えてアジアに行く需要は旺盛。低燃費の航空機への入れ替えも順調に進めている」と述べ、次の一手に自信を示した。
全日空は2013年度までのグループ経営戦略で、13年度に国際線の輸送量を11年度比22%増とする目標を掲げる。この成長を実現するためのキーワードとなるのが、「際際需要」と「ボーイング787」だ。
国際航空運送協会(IATA)によると、アジア太平洋域内の国際線旅客数は09年の1億6000万人から、20年には3億4000万人に倍増する見込み。20年の旅客見通しは欧州が8000万人、北米が7000万人で、アジアの航空需要は突出している。北米とアジアとの中間に位置する地理的優位性もあり、全日空は成田空港が両地域を接続するハブ(中核)空港の役割を果たせるとみる。
このため、北米から日本経由でアジア各国に向かう旅客が国際線と国際線を乗り継ぐ「際際」ニーズに着目し、成田を午後に出発する便を増やす。
まず昨年2月に新規開設した成田-マニラ(フィリピン)線などで午後の出発便を導入したところ、狙い通り米国からの帰省客を中心に乗客が集まり同便の搭乗率は9割を超えた。
午後便は、夜にアジアの空港に到着し機材や乗務員が宿泊するためコストはかさむが、アジアの需要を獲得する必要経費と割り切る。北米と中国を結ぶ成田-成都、成田-広州など、需要をみながら午後便の就航都市を拡大する方針だ。
一方、米ボーイングの最新鋭中型機「787」を17年度までに55機購入し、長距離路線の拡充も目指す。
787は軽量化で燃費効率を20%改善したため航続距離が大きく伸び、従来200~300席の中型機では難しかった日本から米国東海岸や欧州への直行便が可能になった。
今年1月から787で新規就航した羽田-フランクフルト(ドイツ)線は、羽田を深夜に出発し、翌日早朝に着いたフランクフルトで乗り継ぎ、欧州各都市に午前中に到着できる。日本のビジネスマンにとって使い勝手が良く、同路線の5月の搭乗率は80%台前半の高い水準を維持している。「羽田の国際化を商機としたい」(マーケティング室の中尾敦リーダー)という思惑通りの展開だ。
ただ、「際際」ネットワークの充実と787の相乗効果で国際事業の飛躍を狙う戦略の先行きには、難しい課題もある。
アジアの航空需要をめぐっては、シンガポールのチャンギ国際空港や韓国の仁川国際空港もハブ空港の地位を狙っている。
来年夏には成田空港の年間発着枠が27万回に増えるが、現状では24時間稼働で施設も充実しているチャンギ、仁川の評価が高い。近年は、日本の地方空港からも仁川空港を経由して欧州方面に向かう旅客が増えているといい、航空行政の動きを含めた拠点空港の競争力向上が戦略に大きく影響する。
また、ライバル日本航空の巻き返しもある。16年度までの中期経営計画によると、日航は787の購入を従来計画より10機増やして45機に拡大し、需要が見込まれる国際線に集中的に投入する。全日空の787との競合路線が増え、価格競争に陥ることも懸念される。
成田の発着枠拡大に伴い、航空会社が便数や運賃を自由に設定できるオープンスカイ(航空自由化)が本格化。海外勢との競争激化が見込まれる中、会社更生法を経て競争力が高まった日航の復活は頭の痛い問題だ。
全日空は今秋、12年ぶりに成田-ミャンマー線を再開。日本企業の進出意欲が高い新興国に進出するなど今後も国際線の充実を進めるが、成田のハブ化にこだわりすぎると国際競争で後手に回る恐れもある。アジアの航空会社への出資もにらむ国際戦略では、海外空港の競争力も自らの武器に取り込む「アジア企業」として経営の視点が求められそうだ。(鈴木正行)