ニュースカテゴリ:企業
情報通信
意見発信しない「ROM専」たち 高度情報化社会の「矛盾」
更新
若者の「生きづらさ」をテーマに執筆活動を行っている渋井哲也さん(中央)=2012年6月25日(ジャーナリズム学生委員会提供)
SNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)を代表するFacebook(フェイスブック)の利用者は世界で約8.5億人、twitter(ツイッター)は約1.4億人に上るといわれ、巨大なメディアの一つとして確立された。私たち一人一人の個人が、テレビメディアと同等の発信力を持つことを可能にしたのだ。われわれは、その発信力をどれだけ有効に使いこなせているのだろうか。
SNSの持つ発信力の顕著な事例として、中東で起きた「アラブの春」が挙げられる。SNSは、チュニジアやエジプト、リビアで革命的な政権交代を実現する原動力となった。SNSの持つ影響力は中東のみならず、日本でも大きいはずだ。
私たちは2012年6月17日から7月1日までに、100人の大学、短大、専門学校の学生を対象に、フェイスブックやツイッターを使い、インターネットでアンケートフォームを拡散させる形で調査を行った。
アンケートの冒頭でまず聞いた「あなたは社会に対して何らかの問題意識をもっているか」という問いに対して、97%の人が「はい」と回答した。ここでは、問題意識を「何らかの違和感や不満を持っている状態」と定義した。つまりほとんどの若者が社会に満足していないということになる。
続いて前述の質問に「はい」と答えた人に、「その問題に対する意見を何らかの手段で発信しようと思うか」という質問に答えてもらった。結果、意見を発信しようと思う人は60%だった。さらに、そのうち実際に意見を発信したことのある人は38%にとどまった。
問題意識を抱きながらも、意見を発信しようとは思わず、発信しようとは思っても、実際には発信していない人が、少なくないことが分かった。
この結果から、問題意識を持っているのに、意見を発信できないという現状は、今の若者にとって「生きづらい」社会なのではないかと考え、若者の生きづらさをテーマに執筆活動を行う渋井哲也氏に話を聞いた。
調査結果から渋井氏が指摘したのは「ROM専」と呼ばれる若者たちの存在だ。「ROM」とは「Read Only Member(読む専門の人)」の略であり、ROM専は「情報を得るだけで、発信しない」人たちを指している。
アンケートでも、意見を発信しない理由で最も多く挙げられたのが、「発信しても意味がないと思うから」というものだった。意見があってもそれを発信することに意味を見いだすことができない若者、情報収集は自らするが、意見の発信までは踏み出さない若者の存在が浮かび上がってくる。
さらに渋井さんは、こうしたネット上のアンケートに答える人は問題発信の意欲の高い人が多いと指摘する。つまりアンケートで4分の1の若者しか意見を発信していないということは、実際には意見を発信できない、もしくは発信しようとしない若者が相当多いことがうかがえる。
では若者はなぜ意見を発信しても意味がないと思うのだろうか。意見を発信しない理由として2番目に多かったのは、「意見を発信するほど知識がないから」というものだった。
ネットを通じて容易に情報や知識を入手することができる環境にあり、多くの「ROM専」が存在しているのとは裏腹に、自分が知識足らずだと感じている若者が多いということがうかがえる。
ジャーナリストの池上彰さんのニュース解説番組が人気を博しているのも、若者のこういった意識が背景にあるのではないだろうか。
若者の政治への無関心が叫ばれるようになって久しいが、若者は決して無関心なのではなく、意見を発信するという行為に対する若者の躊躇(ちゅうちょ)が原因なのである。「高度情報化社会」という情報の入手・発信ともに容易な社会にありながら、それに取り残されていく若者の存在は、現代の情報社会における大きな“矛盾”である。
情報を広く提供する既存のマスメディアも、そうした矛盾を解消する役割を果たせていない。SNSという新しい情報発信力を積極的に使い、私たち若者自身が「自主的」に社会に参加することも求められているのかもしれない。
「ジャーナリズム学生選手権2012」は、伝えることの大切さを知ってもらおうと企画された学生主体のイベントだ。ジャーナリズム学生委員会は2012年1月に発足。「若者が自分の意見を社会へ気軽に発信できる環境を作り、伝えることにもっと関心を持ってもらいたい」との思いから、イベントを企画した。
選手権では、大学生・短大生を対象に、「高度情報社会に生きる私たち」をテーマにした記事を募り、多数の応募作から入選3作品を選出。執筆者によるプレゼンテーションを含め、審査員が選考する最優秀賞と参加者が選ぶ会場賞を競った。
審査員は、ブロガーのイケダハヤトさん、自由報道協会代表の上杉隆さん、経済ジャーナリストの内田裕子さん、市民メディアアドバイザーの下村健一さんが務めてくれた。
プレゼンテーション後には、ジャーナリストの田原総一朗さんも加わり、「伝えることの大切さ」をテーマにしたパネルディスカッションも行った。(ジャーナリズム学生委員会)