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カメレオン経営で生き残るブラザー工業 「選択と集中」真逆の発想

ニュースカテゴリ:企業の経営

カメレオン経営で生き残るブラザー工業 「選択と集中」真逆の発想

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ブラザー工業の主力事業に成長しつつある通信カラオケ「JOYSOUND  事業の多角化は、あたれば急成長、外れれば「放漫経営」のそしりを受けかねない。しかし、ブラザー工業は時代に応じて事業内容を巧みに変化させながら発展を続けてきた。今期は通信カラオケを中心とするネットワーク関連事業が黒字転換の見通し。「選択と集中」とは真逆の発想で収益を確保してきたブラザーの多角化の歴史には、業界で生き残るためのひとつのヒントが隠されている。

 掃除機、バイク、オルガン…

 ブラザーは何を作っている会社なのか?

 こうたずねると、高齢者は「ミシン」、比較的若い人は「プリンターやファクス」と答えることが多いという。昭和9(1934)年の設立時はミシン製造の会社。現在は売上高の約7割をプリンターなどの情報通信機器事業が占めている。多角化の手始めは、戦後の家電事業だった。

 1950~60年代にかけて掃除機、洗濯機などを相次ぎ発売。家電以外ではオートバイを開発したこともあったという。これらの商品の共通項は「ミシンと同様にモーターを使う」ことで、電動オルガンもつくった楽器事業にも進出した。 

 その後も工作機械、複写機、ファクスなど多分野に参入。昭和61(1986)年には世界初となる「ゲームソフト自動販売機」を発売し、話題を集めた。

 これは電話回線でデータセンターからゲームを送信し、顧客が持参したフロッピーディスクに書き込むというもの。インターネットでダウンロードする現代のゲームを先取りしたかのような商品だったが、販売は低迷し、撤退した。

 失敗は次に生かす

 名古屋市内の本社に隣接する「ブラザーコミュニケーションスペース」には歴史を刻んだ数々の商品群が並ぶ。同社OBの田口文男館長(62)は「事業内容がどう変化して生き延びてきたかを伝えられたらと思っています。さまざまな事業で、もう先がないと冷や冷やしたことも何度かありました」と話す。その上で「失敗したものを必ず次に生きているのが特徴」と強調する。

 例えば、複写機の技術はファクスに応用。平成4(1992)年に米国で発売した「FAX-600」の価格は、当時の相場の半額という399ドルに設定。

 最後発メーカーながら、日本の大手家電メーカーを押しのけ全米シェア1位に輝いた。このファクスの技術はレーザープリンター製造につながる。

 また、ソフト自販機の技術者が集まり、平成4年には通信カラオケ機器「JOYSOUND」が誕生。いまやJOYSOUNDは通信カラオケで業界を二分する有名ブランドに成長を遂げた。

 過度の「選択と集中」は危険

 小池利和社長は「企業は常に成長しなければならない」と強調。新規事業の模索はその流れにある。

 かつて「モノいう株主」が幅をきかせたころ、米系の投資ファンドが同社の大株主に躍り出たことがあった。世は「選択と集中」の時代で、経営者は数字と効率を求められた。「カラオケと工作機械はやめて、プリンターに集中せよ」。ファンドの度重なる要求に対し、同社経営陣ははねかえし続けた。

 「創業からいろんなビジネスをやってきた歴史がある。特定の事業に偏ると危険だという認識があったからだ。過度の選択と集中は危険」(小池社長)。そのDNAを守り続けた。通信カラオケを中心とするネットワーク関連事業は今期に黒字転換、工作機械事業も売り上げの拡大が続いている。

 ミシンに代わる中核事業を探し、試行錯誤を続けたブラザー。現在、主役となったプリンター事業にも安住していない。

 「電子化の進展で今の事業構造は変わらざるをえない。紙を使わない、次の事業を早くつくる」。小池社長はこう述べ、多角化のDNAにさらに磨きをかけ続ける。(内山智彦)

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