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払った人だけ視聴できる 「NHKのスクランブル化」の是非
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NHKが訴訟などで未払いの受信料徴収を本格化させる中、払った人だけが番組を視聴できる「スクランブル化」を求める声が根強くある。過去には総務省の研究会がBS放送のスクランブル化について検討したことがあるが、NHKは導入を否定している。NHK改革を進めた竹中平蔵総務相時代に秘書官を務めた岸博幸・慶応大学教授と、「デジタル時代のNHK懇談会」座長として導入に反対してきた辻井重男・中央大学研究開発機構教授に、その是非を聞いた。(織田淳嗣)
「メディアは確かに多様化しているが、中身は玉石混交で、石の方が多くなっている。やや衰退気味の日本が活力を取り戻すような番組をやるのは、NHK。それは国民全体で支えるべきで、スクランブル化には反対。税金でまかなえという議論があるが、政治的に中立な政治家がいないため、時の政権の意向に左右されてしまう」
「税金で運営されていれば、管理下に置かれることになるが、受信料では干渉の度合いが違う」
「決して良い番組ばかりではない。50年近く大河ドラマを見ているが、真面目に歴史を考えてほしいと思うこともある。だが真面目な番組ばかりだと誰も見ないし、流行のタレントは必要。親しみは大切だ。『俺は見ないから払わない』というけちな根性ではなく『誰か代わりに見て、教育の向上や科学の進歩について考えて。その代わり受信料は払う』というような、支え合う寛容な精神が必要。放送をスクランブル化してしまうと、良質な番組を偶然発見する機会も失われ、視聴者の興味の妨げになる」
「スクランブル化とは別問題で、料金体系で対応できる問題。平成18年にわれわれ『デジ懇』の指摘を受け、NHKは世帯単位の受信料体系に単身赴任者や学生を対象にした割引制度を導入した」
「BSに良い番組は多いと思うし、衰退させたくない。時間とお金をかけないと良い番組はできない。スクランブル化は、確かに論理としてはすっきりする。今みたいな形態はあいまいでいろいろな議論があり、すっきりしない点はあるが、良いのではないか」
「NHKだから。反感を持つ人はいるかもしれないが、弱体化させることは長い目で見れば後悔する。NHK放送技術研究所の研究成果は民放も使っている」
「民放の収入上位3局を合わせた方が予算規模が大きく、民放との二元体制といえる。それほど問題ではない」
「減収したくないだけだ。放送はすべて公共のもの。NHKは無意味に電波が多い。テレビは地上波2波、BS2波。放送の中身は、大リーグだったり米放送局のニュースだったりと過剰だ。民放がやればいい。受信料を取ってまで放送しなければいけないのは緊急災害、(国会中継や選挙などの)必要最低限のニュース、地方の文化だろう」
「BSは難視聴対策もあるが1つで十分。地上波も教育と総合の必要な分だけを足せば十分だ。必要最低限を無料放送にして、国庫補助するか、もっと低い受信料でまかない、それ以外はスクランブル化して有料でやればいい。国民に高い受信料を払わせ、裁判でもめるようなことはなくすべきだ」
「ごく一部のニュースが必要なだけ。災害時、必要ならスクランブルを解除すればいい。技術的にも簡単にできるはず。それにインターネットもあり、国民の情報収集の手段は多様化している。NHKを見ない人がいてもおかしくない。テレビを持っているなら払え、訴訟も辞さないというのは時代錯誤的だ」
「今の受信料収入は多すぎる。平成23年度の収入は6700億円超。民放局よりはるかに多い。しかもチャンネルを持ちすぎており民業圧迫だ。100円、200円下げれば良いという話ではない」
「高い受信料の正当性を担保するとしたら、国際放送。竹島、尖閣諸島の問題で、国の価値観を伝える国際放送の重要性が注目されている。中国はソフトパワー戦略として、国営放送で中国の主張を途上国に刷りこんでおり、実際ケニアなどでCCTV(中国の国営放送)の存在感は大きい。中国は西側のメディアを使うと、主張が伝わらないという判断から、自分たちで放送を行っている。同様にNHKが国際放送を強化してきたというならともかく、そうした成果もなく、あらゆる面から高い受信料を正当化できない」
「それでも、裁判を起こしてまでお金を取り続けることは正当化できない。今の制度は非常に中途半端。罰則がないものを契約で縛り、裁判で取り立てているのはおかしい」
つじい・しげお 昭和8年、京都府生まれ。79歳。東京工業大学卒。平成16~21年、情報セキュリティ大学院大学学長を務め「辻井重男セキュリティ学生論文賞」が創設される。同時期に「デジタル時代のNHK懇談会」の座長を務めた。東京工業大学名誉教授。中央大学研究開発機構教授。
きし・ひろゆき 昭和37年、東京都生まれ。50歳。一橋大学経済学部、コロンビア大学ビジネススクール卒。61年に通商産業省(現・経済産業省)入省後、経済財政政策担当相、金融担当相、郵政民営化担当相、総務大臣の政務秘書官を歴任。慶応大学大学院メディアデザイン研究科教授。