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台湾で真の勝ち組はジャイアント? トヨタ流の自転車生産で快走!

ニュースカテゴリ:企業の経営

台湾で真の勝ち組はジャイアント? トヨタ流の自転車生産で快走!

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 世界的に有名な台湾の自転車メーカー、ジャイアント(台中市)が快走している。健康志向などによる自転車ブームとともに、トヨタ自動車から学んだ生産方式や会長自らがサイクリングをしてPRする体を張った“アナログ”な経営手法が実を結びつつある。3月には大阪に女性用自転車の専門店を開業するなど、台湾製自転車が日本を席巻する日は近い!?

会長が自転車通勤?

 「劉金標(りゅう・きんひょう)会長は通勤も自転車ですよ」。ジャイアントの社員はだれもが劉会長の人柄について語るとき、必ずこのエピソードを笑顔で打ち明ける。

 劉会長は、鰻の養殖業などさまざま職を経て、1972年にジャイアントを創業。当時は従業員30人程度の小さな企業だったが、今では中国、台湾などに9工場を展開し、年間約6百万台の自転車を生産する大企業に成長した。

 78歳の劉会長は、自宅から会社まで片道40キロをほぼ毎日、自社の愛車で通う“サイクリング好き”は有名だ。

 台湾では、スマートフォン(高機能携帯電話)やタブレット端末などIT(情報技術)分野が急成長。台湾経済を支える“看板”だったが、ここにきてライバルの米アップルや韓国のサムスン電子に押されぎみな現状は否めない。

 事実、アジアを代表する台湾のスマホメーカー、HTCがアップルなどとの競争激化が要因で、2012年7~9月期の最終利益を前年同期比79%減少させた。

 IT企業が苦戦しているのに対し、ジャイアントグループの2011年の売上高は、邦貨換算で前年比約7・1%増の約1279億円。最終利益は同約3・2%増の約107億円の黒字と、着実に業績を伸ばしている。

 台湾の企業関係者は「スマホやタブレットは市場にあふれ、消費者に飽きがきている。アップルなどを除いては、市場に活発な変化や伸びは期待できない」と分析。その上で「自転車は移動用から、スポーツ、レジャー用と革新的に変化を遂げており、市場拡大の規模は計り知れない」と指摘する。

世界を自転車で旅してPR

 好調に推移する自転車業界に甘んじることなく、積極的に自ら足を運んでサイクリング文化を世界に伝える劉会長の努力も実績に反映されている。劉会長は自社製品のPRのため、2007年5月に、15日間をかけて自転車で台湾一周するパフォーマンスを決行。台湾にとどまらず、09年には中国・北京~上海の1688キロを、翌年の10年にはオランダで500キロを走り抜けた。

 今年5月には日本にも上陸。愛媛県の中村時広知事や広島県の湯崎英彦知事らとともに、自社製の自転車で瀬戸内海のしまなみ海道をサイクリングするイベントに参加した。

 劉会長のPR作戦の裏には「サイクリングの世界市場の“格差”を解消する目的もある」(証券アナリスト)という。サイクリングブームは世界的に巻き起こっているが、成長率は各国に差がある。

 特に日本はサイクリング人口が少ないといわれ、同社幹部は「20数年前は、日本の自転車市場におけるスポーツ用自転車の割合は1%以下。今は成長したものの、それでも十分ではない」と明かす。

 同社は、国内で専売店舗数を増強させる戦略を敷き、今年3月にも大阪市中央区に、女性の肩幅に合わせた自転車などを販売する女性用専門店をオープンした。

生産のヒントはトヨタ

 一方、日本の自転車メーカー関係者は「ジャイアントと日本は縁が深く、日本市場は特別にしたい思いがある」という声も多い。

 実は、ジャイアントはトヨタ自動車から生産方式を学び、製造工程における無駄を徹底的に省く生産方式を採用。原材料のアルミパイプは3つのメーカーが必要に応じて毎日納品し、必要のないストックスペースを排除するなどコスト削減を主眼に置いている。

 「ジャイアントの生産工程は日本から学んだものとはいえ、自らの商品を世界に向けてここまで地道にアピールできる劉会長のような経営者は今の日本にはいない」とある日本の製造業幹部は指摘する。長引くデフレ不況などで業績低迷が続く日本企業が、今度はジャイアントの経営姿勢を学び直すときがきているのかもしれない。(板東和正)

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