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浜岡原発“急がば回れ戦略” 津波対策、異例の1年延長
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浜岡原発の防潮堤工事を視察する経団連の米倉弘昌会長(左端)=平成24年10月、静岡県御前崎市(内山智彦撮影) 菅直人首相(当時)による超法規的な要請を受け、平成23年5月に運転停止に追い込まれた中部電力浜岡原子力発電所(静岡県御前崎市)。その後も津波対策工事の追加や工期延長を発表、さらには5号機のトラブル検証が長期化の様相をみせ、再稼働への道筋は見通せない。
しかし防戦一方にみえる中部電があえて持久戦に持ち込んでいるとの指摘もある。工事などが長引く間に地元理解に努め、情勢が好転するのを見極めるというのだ。関電管内をはじめ全国の原発停止ドミノのきっかけとなった浜岡の“急がば回れ戦略”は功を奏すか。
「工期が延期するのは厳しいが、津波対策をやり切ることが再稼働の判断につながる」。24年7月、中部電の水野明久社長は、浜岡の津波対策工事の完了が当初予定より1年遅れて25年末になると発表した。工事完了は再稼働の条件で、これで再稼働は26年以降となることが確定した。
東京電力福島第1原発事故を受け、津波対策工事は23年秋に本格着工し、防潮堤建設や原子炉冷却用の海水取水ポンプの増設、非常用電源の増設などが柱。防潮堤は総延長約1・6キロの巨大な構造物で、当初は高さ18メートルを予定していた。
ただ、南海トラフの巨大地震で想定される周辺の津波高を最大19メートルとした内閣府の推計が発表されたことから、24年12月には「対策をより徹底し、安全性を高める」と、さらに4メートルかさ上げして22メートルにすることも決めた。
津波対策の総事業費見込みは1400億円、防潮堤の4メートルのかさ上げで、さらに数十億円を追加。東京スカイツリーと関連商業施設の建設費に匹敵する事業費を投入する巨大プロジェクトとなる。
中部電によると、7月に発表した工期延長は、新たな対策の追加でなく、工事手順の見直しが理由。非常用発電機の高台設置や複数のケーブル敷設を検討するなかで、作業が煩雑となり、時期をずらす必要があると判断したという。最大の狙いは、あくまで「工事を確実にやり切るため」としている。
さらに、23年5月に浜岡原発を停止した際、原子炉に大量の海水が入り込むトラブルのあった5号機の点検作業完了が当初予定の年内から26年9月にずれ込むことも発表した。
ただ、工期に厳密な国内の建設工事で1年も見通しがずれるのは珍しく、さまざまな憶測を呼んでいる。
津波対策工事は本格着工以降、約4千人を投入し、24時間態勢で工事が進められており、工期延長の発表前の同社グループ情報紙では「工程順守を胸に取り組む」と、担当者が決意を語っていた。
それだけに、中部電元幹部は「経験上、工期の見通しがこんなに外れるのは異例。何か別の狙いがあるのでは」と話す。「予定通り24年末に津波対策が完了しても再稼働は厳しい環境。(再稼働の切り札とした)工事が終わったのに、動かせない状況が続くとマイナスの影響が大きい」と解説する。
時間の余裕があれば、工事と平行して再稼働のもうひとつの条件、地元理解を得るための活動に取り組むことができる。
憶測を裏付けるように、ある中部電首脳は「工期延期は結果的にはよかったかもしれない」と語り、別の首脳は「これから積極的に原発の必要性を訴えたい。メリットとリスクを伝え、国民生活に貢献したい」と、世論の喚起に意欲を示した。
すでに世論喚起のためのPR活動は始まっている。津波対策の工事現場では、24年8月に地元自治体の住民を対象に公募見学会も始めた。
24年10月には経団連の米倉弘昌会長が視察。震災後初の原発視察に浜岡をあえて選び、「安全性は格段に強化された。地元の信頼を得た上で再稼働にもっていけるなら世界的な模範になる」とエールを送った。
視察は中部電の要請で実現。財界総理の発信力を活用し、再稼働に向けた地ならしを進める。また「電力業界の主張に理解がある」(水野社長)エネルギー政策を掲げる安倍晋三内閣の発足も追い風として期待を込める。
浜岡の停止で中部電は25年3月期の最終赤字が600億円と2期連続の赤字となる見込み。再稼働がないことが確定した26年3月期も赤字は確実とみられる。
ただ、赤字の穴埋めや株主配当に充てる剰余金は比較的潤沢。今期は1千億円余りを取り崩すが、単純計算であと5~6年は「もつ」勘定で、その間に再稼働させる考えだ。
「世界一安全な原発を目指す」(中部電)ための津波対策の総事業費1500億円弱。巨大な壁などが完成するまでの時間を浜岡の再稼働のためにいかに有効に使えるかが問われることになりそうだ。(内山智彦)