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真価問われる東芝3人体制 成功の鍵握る6分野、グローバル化への対応急務

2013.3.21 08:15更新

東芝の売上高と最終損益

 東芝の新しい経営体制が6月下旬に発足する。主流の電力部門などではなく調達部門出身の田中久雄・新社長を、上場以来初の副会長に就く佐々木則夫社長と西田厚聡(あつとし)会長が支える異例の布陣だ。リーマン・ショック後、いち早く経営を立て直し、安定的な利益体質への復帰を果たした東芝。今後いかに売上高を拡大し、自他共に認めるグローバル企業の道を歩むか。真価が問われる。

 売上高減少に危機感

 「売り上げがどんどん減っている」。2月26日、都内の東芝本社で開かれた社長交代記者会見後、西田会長が記者団に漏らした一言が、直面する経営課題を象徴していた。

 リーマン・ショック直後の2009年、西田氏からバトンを渡された佐々木氏は10年に携帯電話事業、12年に中小型液晶事業を相次いで売却。同時に、エネルギーなどインフラ事業に経営資源を集めて収益体質を強化し、V字回復を果たした。

 記者会見で佐々木氏は「10年度には東芝創立以来、過去最高となる(最終)利益を出し、成長軌道に乗せる私の役割は果たせた」と胸を張った。海外勢との競争激化でパナソニックやソニーをはじめ電機大手各社の業績が軒並み悪化する中、佐々木氏の手腕が際立っていることは間違いない。

 一方、07年度に7兆5000億円に迫る勢いだった売上高は11年度に6兆1000億円まで落ち込んだ。不採算事業を売却した結果とはいえ、12年度に8兆9000億円を見込むライバルの日立製作所に比べ、明らかに見劣りしている。

 記者会見で田中氏は「既存事業、成長分野を早く育成して売り上げの成長に結び付ける」と強調したが、伸び悩む売上高をいかに回復させていくかは喫緊の課題となっている。

 成長分野テコ入れ

 鍵を握るのは6つの成長分野とされる。環境配慮型都市などの「スマートコミュニティ」分野については、欧州の次世代電力計メーカーの買収をテコに15年度の売上高を9000億円まで高めたい考えだ。

 また、堅調な記憶用半導体「NAND型フラッシュメモリー」は7000億円、電気自動車(EV)用モーターなど「パワーエレクトロニクス・EV」は6500億円にそれぞれ引き上げることを目指すほか、「再生可能エネルギー」で3000億円、「ヘルスケア」で8500億円、「デジタルプロダクツ融合商品・サービス」で2000億円と具体的な数字を掲げている。

 国内のテコ入れに加えて、グローバル化への対応も急務だ。海外駐在歴が14年超の田中氏は先進国のほか、フィリピンなど新興国でも勤務経験を持つ。インフラ事業を中心に経済成長の著しい新興国での売上高向上も重要になっている。

 ただ、東芝がグローバルな戦いで成功を収めるには「調達コストを下げなくてはいけない」(みずほ証券の北岡真一シニアアナリスト)。すでに日立は昨年3月、海外調達の強化などで15年度までに4500億円程度のコスト削減を行う計画を打ち出している。

 かつて、パソコン資材の調達に携わった田中氏は、コストカットに手腕を発揮してきた。西田会長は「(調達は)サプライチェーン(供給網)の横串を刺す重要な部門。事業全体を見極め、グローバルに実行している」と田中氏を評価するが、東芝グループ全体のコスト低減の実行は、まさに待ったなしだ。

 会長、副会長と役割分担 社長の独自色に注目

 今回の3人体制で、田中新社長がCEO(最高経営責任者)となり、西田会長は経営の「監督役」を担う。政府の経済財政諮問会議の民間議員で、経団連副会長に内定済みの佐々木氏は社外活動が中心になりそうだ。

 今回のトップ交代で、田中氏は最初から最有力候補だったわけではないという。西田氏はパソコン、佐々木氏は原子力発電の出身。歴代トップもパソコン・半導体やインフラ事業の出身者が多く、次期社長として名前が取り沙汰された役員も同様だった。

 しかし、西田会長と佐々木社長、それぞれに近い候補者は最終的に選ばれず、「2人に認められた」(東芝関係者)田中氏が選ばれた。

 各部門の責任者にスペシャリストが多い東芝だけに、田中氏は「調整役に徹する」(証券アナリスト)との指摘も少なくない。強いリーダーシップを発揮する会長、副会長と役割分担しながら、田中新社長がいかに独自色を出し、成長の道筋を描くか、注目される。(田村龍彦)

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