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シェール革命逆手、不足するブタジエン 石化業界、新製法に商機

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シェール革命逆手、不足するブタジエン 石化業界、新製法に商機

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 シェールガス革命が石油化学業界にビジネスモデルの転換を迫っている。シェールガスは発電用燃料のほか、石油由来のナフサ(粗製ガソリン)に代わる化学品の基礎原料として注目されているが、一方でシェールガスから作れないブタジエンなどの化学品の安定確保が懸念されている。そこで、石化各社はナフサの生産が将来しぼんでも、こうした化学品を作れる新製法の開発、事業参入の動きを相次いでみせている。国内の石化コンビナートの競争力向上、生き残りの切り札として、動きがさらに広がる可能性がある。

 ナフサ縮小のあおり

 「構造改革の手は緩めない」

 昭和電工が2月に開いた2012年度の本決算説明会。市川秀夫社長は、シェールガス革命が押し寄せていることを念頭に厳しさを増す石化事業についてこう力強く言い切った。市川社長は「大分コンビナート(大分市)の生き残りをかけ、競争強化策を徹底的に実施している」と話し、その施策の一つとして、新製法によるブタジエン参入を計画していることを“宣言”した。

 北米で計画されているシェールガスの大量生産は、シェール由来のエチレンが安価に大量生産できることを意味する。ナフサ由来のエチレンを製造するのに比べ、コスト競争力で圧倒的な優位に立つ。その結果、ナフサの生産が縮小し、それに伴いナフサ由来の化学品の不足が懸念されている。

 シェールガス革命の台頭や石化市場の縮小をにらんで、国内でナフサ由来の石化生産設備の生産撤退、縮小の動きが早くも出ている。住友化学は2月、次期定期修理を迎える2015年9月までに千葉工場(千葉県市原市)のエチレン製造設備を停止すると発表。三菱ケミカルホールディングス(HD)は傘下の三菱化学鹿島事業所(茨城県神栖市)のエチレン製造設備2基のうち、1基を14年に停止するとともに、米国でシェールガスを使った化学プラントの建設を計画している。

 昭和電工が参入を計画しているブタジエンは、低燃費タイヤ向け合成ゴムなどに使われる石化製品。ナフサ精製の副生物として抽出されるB-B留分からつくるが、B-B留分はエタンが主成分のシェールガスからはほとんど抽出できない。このまま放置すれば、将来ブタジエンが足りなくなるのは火を見るより明らかだ。

 昭和電工は大分コンビナートで生産している溶剤向け化学品アセトアルデヒドと、エタノールからブタジエンをつくる新製法の開発に着手。現在、採算性を高める生産工程の構築を急いでおり、16年から大分コンビナートに国内シェアの約1割にあたる年産10万トン規模のブタジエン生産設備をつくる計画だ。

 アセトアルデヒドはナフサ、シェールガスどちらからでもつくれるエチレンを原料にしているので、枯渇の心配がない。それどころか中国製溶剤が日本に大量に流入している影響で供給過多になっており、昭和電工のアセトアルデヒド設備は稼働率が低迷している。ブタジエン設備が動き出せば、不足が懸念されるブタジエン事業に参入するとともに、アセトアルデヒドの稼働率向上も見込め、大分コンビナートの底上げが図れるメリットがある。

 ブタジエンの新製法は昭和電工だけにとどまらない。三菱化学、旭化成もブタジエンに熱い視線を注いでいる。

 生き残りへ希少品開発模索

 水島コンビナート(岡山県倉敷市)を共同運営する両社は、B-B留分からブタジエンを抽出した残りのブテンと呼ばれる成分に着目。現状、ブテンは燃料程度にしか使われていないが、両社は触媒技術を利用しブタジエンにする新技術を検証中だ。それぞれ水島コンビナート内に試験プラントを設け、実用化へ向けた準備を進めている。

 シェールガス革命の大きなうねりで、今や「石化業界の過去の常識が通用しない」(石化メーカー関係者)時代に突入した。「ほんの数年前までは、石化産業はエチレンでもうけるのが本線だった。副生物はいかに処分するか、という程度にしか扱われなかった」という前提が大きく崩れつつある。

 シェールガス革命を逆手にとって、他社ではできない独自技術で付加価値品を生み出すという流れ。「希少価値のある化学品がチャンスの種になりつつある」と石化関係者。国内縮小が避けられない石化業界にとって、ピンチをチャンスに変えるタイミングは今しかないかもしれない。(兼松康)

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