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日本の技術は今も世界最高水準 注目の次世代原子炉とは?
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4Sと軽水炉の構造イメージ
原子力規制委員会は、月内にも原発の新規制基準の条文案を公表し、7月に法制化する。新基準は安全確保を過度に重視し、「まるで再稼働させないため、必要以上に厳しい内容」との批判も少なくない。
日本の原発はそれほど危険なのか。国民生活を守っていくため、現実的な視点で原発の「安全」を極めようとする現場の最前線を取材した。
トルコの首都アンカラから北へ350キロあまり。黒海沿岸の港湾都市シノップに計画されている原子力発電所建設を、日本が提案する三菱重工業-仏アレバ連合が受注することが4日、ほぼ確実となった。
中国、韓国、カナダと受注を争った総事業費が2兆円超にのぼる一大プロジェクト。建設する原発は4基で、1号機は2023年までの稼働を目指している。
東京電力福島第1原発事故後、日本の原発への信頼は著しく低下したが、「トルコだけでなく、リトアニアでの原発建設も事実上受注しており、ようやく動き出した。そもそも日本の原発技術は今も世界最高水準といわれている」(電力関係者)。
世界が今、注目する次世代原子炉がある。東芝が開発を進めている「4S」と呼ばれる超小型高速炉だ。
発電出力100万キロワット級が標準となっている既存の原発に比べ、4Sは1万~5万キロワットと低いが、燃料交換なしで10~30年間の連続運転が可能。燃料交換が不要になれば、原子炉を収納する容器の密閉性は向上するため、放射性物質の封じ込めに効果が期待できる。
福島の事故では冷却水の枯渇で原子炉の燃料が冷やせず、建屋の一部が吹き飛んだ。4Sは「低出力なので炉心温度も低く、非常時の冷却や安全制御の確実性が高い」と東芝電力システム社の尾崎章・原子力事業部技監は強調する。
関西電力が採用している加圧水型軽水炉など既存炉は、核燃料全体が連鎖反応して熱を出し続ける状態を作り、そのコントロールは反応を抑える制御棒の出し入れで行う。
これに対し、4Sで燃料の反応をコントロールするのは「反射体」という鋼鉄の筒。その中心を燃料が通っており、筒に覆われた部分の燃料だけが燃え、覆われていない部分は反応しない。反射体を外せば、燃料は反応しなくなるため、非常時の冷却を確実に行うことができる。
安全の追求とともに、使用済み燃料の処理は原発の重要課題と位置付けられている。4Sでも使用済み燃料が発生することに変わりはない。ただ、同炉を発案した元電力中央研究所理事の服部禎男氏は「既存炉の核燃料は3、4年で使用済みとなる。4Sは30年近く使えるため、その時間を活用することができる」と話す。4Sの導入が抜本的な解決策につながるわけではないが、時間的な猶予を作り出すことだけでも有効な次世代炉だ。しかも同じ設計で生産することを前提にしているため「大量生産できれば、建設費用は一気に下がる」(関係者)。
トルコでの原発受注がほぼ決まった三菱重工も次世代炉の開発を急ぐ。最大のテーマは過酷事故時に人間の操作を省くことだ。
燃料が高温になり、冷却水が蒸発などで無くなった場合、通常は反応を抑えるホウ酸水を流し込む。既存の原発はホウ酸水のプールを格納容器の外に設け、複雑な配管とポンプで中に引き込む設備が必要だった。
次世代炉は格納容器内にプールを取り込み、ポンプや配管を省略。「これによって人的な操作ミスは格段に減る」(加藤顕彦・安全高度化対策推進室長)。
自国の原発に対する不信感を払拭(ふっしょく)できない一方、トルコの受注など海外で日本の原発に対する評価は揺らいでいない。
原子力に向けられる厳しい目を意識しながらも、電力会社、原発プラントメーカーの技術者は3・11以前から同じ言葉を繰り返してきた。「安全向上に終わりはない」。
【4S】東芝が電力中央研究所と共同開発している高速ナトリウム炉。発電出力は1万~5万キロワット。炉心は直径0・68メートル、高さ2メートルとコンパクト化され、理論上は燃料交換なしで30年間使用できる(1万キロワットタイプ)。炉心温度が低いため、制御しやすいほか、船舶で輸送して据え付けができるなどの特徴をもつ。